筆者は猫を飼うことになった。そこでその活動を時々記録する、といって2015年5月に一度書いたきりになっていた連載を、再開することにした。まず、過去にアップした第一回目を再掲する。
まず、始めるにいたった経緯を説明したい。筆者は昨年冬、都心の千代田区麹町から横浜市の片隅に引っ越してきたのだが、その折、「猫を飼いたいね」と、カミさんと話していた。都心ではなかなか飼うことは難しいが、横浜の片隅に行けば、家賃は安いし、猫を飼える物件も多々あるに違いない、と踏んだのだ。
それで、自然も多いし、静かだし、空気もいいし、景色もいいし、広いし、キレイだし、ペット飼育可なので、ここにしよう、というマンション物件をさっそく見つけることができた。だが、契約を進めようとしたところ、このマンションの規約では猫を飼ってもいいことになっているが、その部屋を貸しているオーナーが「犬はいいけど猫はダメ」と言った。
「まあ、他にも色々物件あるんだから、他探してみよう」と言ったが、それがなかなか見つからないのである。なぜなら、「ペット可」という物件も、よく調べてみると、ほとんど犬のみとか、小型犬のみ可、で、猫は飼えないのだ。
それで何とか猫が飼える物件をみつけたが、四車線あるドデカイ道路に面しているのが非常に気になった。道路と部屋の距離が数メートルしかなく、車が通るたびに、魂が車にひかれたような心地になるのだ。それだから耳栓つけて執筆しようと覚悟を決めたが、結局、カミさんの方が断念した。
それであまり長々と物件を探す時間的余裕はなかったので、猫は断念しよう、無理だ、という
ことで、猫の飼えない部屋に住んだのだった。
ちなみに、こうして住み始めたわけだが、筆者が住んでいる横浜の片隅というのは、横浜市「栄」区というところである。「栄」という字なのに、高齢化率が横浜一で、人口も面積も横浜屈指の低さで、区内の駅は本郷台と大船のみ。ここは栄ようがないのではないか、とひそかに思ったが、住んでみると、栄えているものがあるのを知った。それは、「緑」と「鳥」である。栄区の緑地率は横浜一だそうで、筆者の家の前も原生林のようなうっそうとした木々の生い茂る小高い丘がある。そのため、色々な鳥が盛んにさえずりをしている。聞いたことのないような鳥の鳴き声も多く、毎日が協奏している。むろん、ウグイスもいい音色を出している。
こうして住み始め、なんとかやっているわけだが、カミさんがことあるごとに、猫を飼いたい、という。それで先月、実はカミさんがちょっとした持病の手術をすることになったのだが、入院前後に、やたらと、猫づいていた。出勤時に猫を見たり、自宅からバスで十分程度の実家に帰るときに猫がいたり、退院後に英国のホームレスを救ったボブという猫の本の存在を知り(「ボブという名のストリート・キャット」(著: ジェームズ・ボーエン/辰巳出版))、それを読んで感動して泣いたり、「猫びより」(辰巳出版)という雑誌を定期購読することにしたりと、猫オーラのようなものが漂っていた。
そんな折、フジちゃん、という、カミさんの実家の近くにいるメスのノラ猫が、弱っろている感じで歩いていた、というのをカミさんが知ったのだった。
「フジちゃん」とは、カミさんの実家近くのフジマキさん(仮名)という家の飼い猫のようだったが、フジマキさんはすでにその家には住んでおらず、残された猫は庭で暮らしていた。その猫をカミさんは、フジちゃんと名付けたのだ。フジちゃんは美猫という。
一度、カミさんが仕事に行こうとしたら、ニャンニャンいって、飼ってほしそうな感じで付いていた。だが、カミさんの実家では諸事情で飼う事が出来なかったため、カミさんは断腸の思いで、フジちゃんには応えなかった。こういう経験から、「猫は飼い猫活動をする」とカミさんはよくいう。
後日、フジちゃんをみつけたカミさんが、なでようとして近づくと、フジちゃんははじめのうちはなでさせてくれるが、にわかに立ち上がり、バリバリバリっ、と思いっ切り、カミさんの腕をひっかいた。飼ってくれないことに、怒っているのだろう。
こういういきさつがあったので、猫が飼える部屋に住んだ暁には、フジちゃんを飼おう、と話していた。
そして、猫づくなかで、フジちゃんが弱っているのを知ったカミさんは、いてもたってもいられないに感じになっていた。そこで筆者はかるく近場の物件を調べたところ、ひとつ、猫が飼える物件があった。それで、思い切ってここでフジちゃん飼ってみようか、という話になり、ひとまず、カミさんの妹さんたちと協力して、フジちゃんにエサをやることにした。
フジちゃんはやせ衰えて、毛も一部抜けていた。近所の主婦の話では自傷行為で毛をむしり、人間の手のひら大のはげができてしまったのだという。
そんなフジちゃんは、人間になでられると、甘える様子もみせるが、触りどころが気にくわないときは、容赦なく、ツメでひっかいた。
そんなフジちゃんに、エサをあげに毎日通うようにしたところ、徐々になつき出したのだった。
(続く)