2018年03月11日

ルポ猫を飼う いきさつ 六



「猫ちゃん、飼っても大丈夫ですよ」

と、言った。


 およそ猫を飼ってはダメだ、といっていた物件が、にわかに飼ってもいい、などというのは、信じがたい話である。


しかも、あとで聞いたところによると、大家は、猫が好きではない、という。


そんな物件が、なぜか。


実は、その当時、ちょうど、この物件の住人の引っ越しが相次いでおり、そのうえ、うちにも出て行かれると、大家にとっては、困る事態だった。


そこで、にわかに、猫を飼ってもいい、ということに転換した。


条件は、部屋飼いで、一匹のみ、ということだった。


それから数日後、各部屋に、大家から、その旨の通知書が投函された。


ちなみに、その後、不動産サイトに載ってる、ここの物件には、ペット可、という文字は絶無だった


つまり、このときだけの特例だったのだ。

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2018年03月03日

ルポ猫を飼う いきさつ 五



 ふじちゃんが、カミさんの実家でくらす、という選択肢がなくなった。

そこで、意を決し、引っ越すことに、決めた。改めて。


そのとき、カミさんは、いま住んでいるところで、猫が飼えないか、念のため、大家さんに聞いてみたい、という。もともと、ペット可マンションではない、と聞いていたので、大家に聞いても無理だ。


 と確信しつつ、筆者は、大家のいるとある場所へ行き、


「猫、飼えないですかね?」


と聞いた。


「飼えません」


と大家は即答した。


それを伝えたところ、カミさんは、仲介した不動産の担当者に、手紙を書いた。


本当にこの物件が気に入っていたけど、どうしても猫を飼いたいので、引っ越します、短いあいだでしたが、いままでありがとうございました、という意味のことが、つらつらとつづってあった。


そして、いざ、引っ越し、という段になる直前に、ささやかな、奇跡が、起こった。


手紙を読んだ不動産の担当者が、カミさんに電話をし、にわかに、こう切り出したのだ。

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2018年01月27日

ルポ猫を飼う いきさつ 四

 こうして、フジちゃんと、カミさんの実家のオス猫を、居間のガラス窓越しで、引き合わせることとなった。


すると、実家の猫のほうは、ニャンニャンと親しげに鳴いて近付いた。


だが、意外にも、フジちゃんのほうは、プイっと横を向いて無視した。気に食わなかったのだろうか。


そして、「なんだ、ほかの猫がすでにいる家なのか。こんな家に興味なし」、という感じで、さっさと庭の外に出て行ってしまった。


実家のオス猫が、新手のフジちゃんを追い返そうとするならわかる。が、野良猫で日々ひもじい思いをしているフジちゃんが、こういう態度をとるとは、思わなかった。


人間なら、もっといやしく媚びへつらって、飼われようとすることだろう。


要するに、たとえ雨露をしのぎ毎日食事が出る生活が送れるとしても、自分以外の猫のいる家に住むくらいなら、飢えや寒さに苦しんでも、我が道を行く、というプライドが、ほとばしっている。


 司馬遼太郎氏の「街道をゆく」に、モンゴルには「悪く生きるより、よく死ね」という言葉がある、とあったが、猫の生きざまにも共通する。


この気位の高さ――。


人間も猫を見習うべきである。

 (続く)

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