2018年05月20日

ルポ猫を飼う いきさつ 九


 彼方から歩いてやってきたそのおばさんは、藤巻さんの家の前にさしかかると、にわかに、いつもふじちゃんのいる場所のほうを、しきりにながめ始めた。


 ふじちゃんのことを知っている人なんだろうな…


 とっさにそう感じたカミさんは、


 「いませんね」


 と聞いた。


 すると、そのおばさんは、ふじちゃんのことだとすぐにわかった様子で、にわかに、こう言った。


 「いませんよね。大抵、いるんですけど」


 そして、こう語りはじめた。


 「あの子は、『たま』というんですけど、元の飼い主さんの話によると、もう結構、年をとっているんですよ。

 元の飼い主さんは『こいつは若く見えるけど、結構年なんだ。14歳くらいだ』と話していたんですよ。それを聞いたのが2年以上前だっかしら…」

 おばさんの話を聞きながら、顔だちが若々しく、せいぜい45歳だと思っていたふじちゃんが、実は16歳を超えていたという事実に、カミさんは驚いた。


 さらに、おばさんは、こう語った。


 「飼い主が、あの子を庭に置いたままいなくなって、近所の親戚がご飯をあげに来るようになっていたんですよ。でも、外の暮らしが辛そうで、近所のほかの猫やカラスにいじめられたりして、ご飯もとられちゃって、だんだんやせていった。

 息子からは連れて来ちゃいなよ、と言われていたりしたけれど、一応、よその家の飼い猫だから、それはできないよわ、と話したりしたんだけれど…。

 最後に見たのは、金曜の夕方、ガリガリにやせて、毛がはげて…。いつもは、呼んだら側に来たのに、その時は来なかった…」


 そして、おばさんは、にわかに、こう言った。


 「死んだかもしれませんよ」

posted by ssk at 13:03| Comment(0) | 連載
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