彼方から歩いてやってきたそのおばさんは、藤巻さんの家の前にさしかかると、にわかに、いつもふじちゃんのいる場所のほうを、しきりにながめ始めた。
ふじちゃんのことを知っている人なんだろうな…
とっさにそう感じたカミさんは、
「いませんね」
と聞いた。
すると、そのおばさんは、ふじちゃんのことだとすぐにわかった様子で、にわかに、こう言った。
「いませんよね。大抵、いるんですけど」
そして、こう語りはじめた。
「あの子は、『たま』というんですけど、元の飼い主さんの話によると、もう結構、年をとっているんですよ。
元の飼い主さんは『こいつは若く見えるけど、結構年なんだ。14歳くらいだ』と話していたんですよ。それを聞いたのが2年以上前だっかしら…」
おばさんの話を聞きながら、顔だちが若々しく、せいぜい4〜5歳だと思っていたふじちゃんが、実は16歳を超えていたという事実に、カミさんは驚いた。
さらに、おばさんは、こう語った。
「飼い主が、あの子を庭に置いたままいなくなって、近所の親戚がご飯をあげに来るようになっていたんですよ。でも、外の暮らしが辛そうで、近所のほかの猫やカラスにいじめられたりして、ご飯もとられちゃって、だんだんやせていった。
息子からは連れて来ちゃいなよ、と言われていたりしたけれど、一応、よその家の飼い猫だから、それはできないよわ、と話したりしたんだけれど…。
最後に見たのは、金曜の夕方、ガリガリにやせて、毛がはげて…。いつもは、呼んだら側に来たのに、その時は来なかった…」
そして、おばさんは、にわかに、こう言った。
「死んだかもしれませんよ」