次いで、同年10月18日付「大量廃棄物「発泡スチロールトレー」の実態」の元原稿は以下のとおり。
微細粒子となって海を汚染するプラスチックなどの容器は、「容器リサイクル法」によって、リサイクルが事業者に義務付けられている。(自治体が分別回収してリサイクルする場合、企業がリサイクル費用を負担する仕組み。ただし、例えば東京都23区の中の多数の区のように、プラスチックを分別せず燃やすゴミと一緒に出して焼却炉で燃やしてしまう自治体もある。これは分別すると費用がかかるので燃やしてしまっているわけだが、容器リサイクル法は、リサイクルをするのが望ましい、とは謳っているが、リサイクルを義務付けていない。なので、プラスチックなどを燃やすことが可能になっている。東京都のやっていることは一種の「抜け道」である)
容器リサイクル法でリサイクルすることになっているのは、プラスチック、紙、スチール缶、アルミ缶、瓶など。
あまり知られていないが、この容器リサイクル法には、1年間に50トン以上を出す小売業者を「容器包装多量利用事業者」にカテゴライズして、所管省庁に「定期報告」することが義務付けられている。報告事項は、容器包装を用いた量(プラスチックの量、そのうちプラスチック製の袋の量、紙の量、そのうち段ボールの量、その他の量、合計、対前年比率)、容器包装の使用量を減らすために実施した取組みなど。
この「容器包装多量利用事業者」の「定期報告」を提出しなかったり、虚偽の報告をした場合や、主務大臣から立入検査を求められたときに、これを拒んだり妨げたりした場合は、「罰則」として20万円以下の罰金が科せられる。また、容器包装廃棄物の排出抑制の促進の状況が、著しく不十分であると認められる場合、「勧告」、「公表」、「命令」を経て「罰則」として50万円以下の罰金が科せらる。
このように重い義務が課せられるのは、リサイクル制度を構築していく上で、「多量利用事業者」の責任は、量が多い分、大きいためである。
それにしても、「多量利用事業者」には一体どういう業者が名を連ねているのか?それを知るため、筆者は「容器包装多量利用事業者」が「使った容器包装廃棄物の量」が記載された文書を、各省庁に情報公開請求をした。
所管は、「飲食料品小売業」(各種食料品店、肉屋、魚屋、洋菓子小売業、パン小売業、そう菜屋等、酒類除く)が農水省。「酒小売業」「たばこ・喫煙具専門小売業」が財務省。「医薬品小売業」(調剤薬局等)が厚労省。その他のスポーツ用品、娯楽用品、楽器、書籍・文房具、自動車部品、化粧品、衣服、家具、機械器具(電気機械器具小売業)等等は、経産省となる。
各省に開示請求したところ、財務、厚労省は文書不存在という返事がきた。つまり、酒やたばこ、薬局などの小売業には、プラスチック等を50トン以上も使う会社はなかったというわけ。他方、農水省は開示された。(経産省は文書はあり現在手続き中)
その後、文書が自宅に届き、筆者は興味深く開いた。だが、肝心の「事業者名」が黒塗りになっており、ガッカリした。
食品リサイクル法に基づく定期報告におけるシステム集計データ@.pdf
食品リサイクル法に基づく定期報告におけるシステム集計データA.pdf
「黒塗りの理由」を農水省の食料産業局バイオマス循環資源課ワタナベ氏に聞いたところ、「本来、事業者名を公表することを前提にした数字ではない。公表することにより、事業者にとって不利益をもたらす可能性があるので、不開示にした」という。なんとも業者寄りの言い分だが、こうして企業名を伏せると、消費者の意識が低くなり、結局、リサイクルが進まなくなる、という弊害が出るは想像に難くない。
このようにアンコのないアンパンのような状態ではあるが、開示文書から何かしら、わかることはある。
まず、飲食料品小売業の多量利用事業者数は、470社だった。そのうち、上位10社の容器包装廃棄物の量は、10位2,865トンから1位11,806トンのレンジ。
1位の内訳はプラスチック4,671トン(そのうちレジ袋はゼロ)。紙製容器包装2,664トン。その他4,470トン。2位は合計7,138トン。そのうちプラスチックは6,987トン(うちレジ袋2,927トン)。3位は合計5,510トン。うち紙が4,794トンを占める。
このように1位と3位はプラスチック以外も多いが、4位は合計5,126トン。うちプラスック4,531トン(レジ袋なし)。5位合計4,245トン。うちプラスチック4,196トン(うちレジ袋1,543トン)など、4位以下は7社中6社が、大半をプラスチックが占めている。
11位以下をみても、その多くはプラスチックの割合が大きい。
それにしても企業名は言えないにしても、一体どういう店なるのか?その点を同課のハセベ氏に質問したところ、大規模なスーパーやコンビニが多いという。同氏は例として、イトーヨーカドーを挙げた。なるほど、そうした全国チェーンの方が店舗数が多いので必然的に数値が高くなるというわけだ。
では、プラスチックとあるが、そのうちレジ袋以外とは、例えばどういうものがあるのか?その点を同氏に聞くと、例として「発泡スチロールの容器トレー」を挙げていた。たしかに、私ごとではあるが、筆者の家に当てはめても、プラスチックゴミで最も多いのは魚や肉、惣菜、おかず類などに使うスーパーの容器トレーである。
プラスチックゴミのうちレジ袋は、有料化することで削減しているスーパーは多くなってきたが、容器トレーは野放し状態でリサイクルの盲点といっていい。
上記のことが開示文書からわかった。
ちなみに、国際環境NGO「F o E J a p a n」が13年2月に作成した「より少ない資源でより豊かなくらしを 発生抑制のしくみづくりに向けた提言(最終案)」には、「容器包装多量利用事業者」について、こう書いてある。
「現行容器包装リサイクル法では、『容器包装全体』で50トン以上使用する事業者が対象のため、トレーなどを含めて多量に利用するスーパーマーケットなどが対象となりやすい」
そして、「トレーなし販売の推進」をこう提言している。
「1)ノントレー包装」
「・すでに一部のスーパーでは、精肉をポリ袋に入れた状態、または真空パックにして販売している。ポリ袋の場合は約85%、真空パックの場合は約40%の資源使用量を削減することができる(中略)。現在ノントレー販売されているのは、扱いやすい一部の商品のみであるが、消費者も『見た目』以上に『ごみにならないもの』を選ぶように変わってきた。真空パックの場合は、消費期限が長いというメリットもある」
「・店内の加工場に自動計量・包装を行うノントレー包装用の機械を導入するなどして、さらに多くの商品をトレーなしで販売することが期待される。国の見える化のデータも売り場でわかりやすく掲示するなどさらに活用されることが望ましい」
「2)裸売り、ばら売り、量り売り」
「・スーパーマーケットによっては、野菜や果物だけでなく、魚売り場においてもサンマや塩鮭など一部の商品、惣菜売り場の揚げ物等において、顧客が必要な数・量だけ取ってポリ袋に入れる方式で販売されている。
「・欧米のスーパーマーケットでは、野菜やシリアルなどを顧客が自分で計量してシールを貼る方式が定着している」
「・今後、このような販売方法の導入の拡大が望まれる」
これらを実現すれば、プラスチックゴミは劇的に減らせる。だが、全然普及していないのが現実である。
ちなみに、米国では、サンフランシスコ、シアトル、ポートランドなどで、発泡スチロールトレーの禁止が立法化されている。ただし、ニューヨークでは、つい先日、発泡スチロール業者の猛烈な反対ロビー活動により、立法化目前で撤回されたばかり。
このように、業界の反発は必至だが、国もしくは自治体レベルで、発泡スチロールトレーの禁止をすれば、上記の「トレーなし販売」が一気に実現することができる。逆にいうと、法律で禁止しなければ、発泡スチロールトレーは、いつまでたってもなくならないのではないか?(佐々木奎一)