次いで、同年9月20日付の「役所がコッソリと持って行くプラゴミの行方」の元原稿は以下のとおり。
8月23日付の当コーナーでお伝えしたように、横浜市の家庭から収集されるプラスチックゴミ(プラゴミ)の行方を知るため、市内で最も高度な性能を持つ金沢工場の現場へ行った。ところが、同工場で働く説明役の市職員によると、同工場ではプラスチックは扱っておらず、隣の「選別センター」という施設でプラゴミを選別して、民間のリサイクル施設へ持って行っているという。
そこで筆者は、日を改め、選別センターへ見学の申し込みをして、現場を見て来た。すると、そこで働く男性職員(横浜市の下請け機関「公益財団法人 横浜市資源循環公社」の職員)が、10人程座れるスペースの部屋に筆者を案内し、ゴミの仕分けの仕方や、選別センターで缶・瓶・ペットボトルを仕分けしていることなどを懇々と説明した。
ところが、いつまでたってもプラスチックの話が出ないので、プラゴミがどうなっているのか、聞いてみた。すると、驚いたことに、その職員は、「プラゴミの収集車はここには来ません。直接、リサイクル施設へ行っています。詳しいことはこちらではわかりかねますので、横浜市に聞いてください」と言った。
現場で働いている金沢工場と選別センターの職員でさえ、プラゴミがどうなっているのか、ちゃんと把握していないのだ。
そこで筆者は、横浜市資源局の分別・リサイクル推進担当に電話して、「家庭で分別収集したプラゴミはどこに行っているのか、詳しく知りたい」と尋ねた。すると、担当者は、こう即答した。
「昨年度、収集してリサイクルに回した量は47,864トン。そのうち、489トン、こちらは横浜市が独自で業者に委託して資源化しています。その他の分は、日本容器包装リサイクル協会に引き渡しています。容器包装リサイクル法(容リ法)に基づき、同協会に引き渡したプラゴミは、プラスチック製品を産出しているメーカーなどの『事業者』がリサイクル費用を協会に支払う形で負担しています。ただし、容リ法に基づき、1%だけ、市町村負担として、489トンを横浜市がリサイクル費用を負担しているわけです」
この担当者が言うには、プラゴミのリサイクル方法は、コークスやプラスチックを化学分解するガス化などがあるという。リサイクルをしている業者名はを問うと、「今年度は、横浜市の分は、千葉県にあるジャパンリサイクルに委託しています。協会分は、協会の入札により川崎市にある昭和電工とJFEプラリソース、それと千葉県にある新日本製鉄住金君津、ジャパンリサイクルの4社が行っています」という。
そこで筆者は、「他の自治体では、プラゴミを焼却炉で燃やしているところもあるが、横浜市がリサイクル業者を使っているのはなぜか」と聞いた。
するとこの担当者は、「他の自治体では、分別するのに費用がかかるので、燃やしている場合があります。横浜市は、容リ法と、資源の有効活用ができる、ということで、資源化しています。ただし、それにより費用はかかっています。ざっと、昨年度で収集運搬と中間処理合わせて28億円かかっています」という。
このように現場の職員とは対照的に、横浜市役所に詰めている担当課の職員はスラスラと説明した。それにしても28億円というと、横浜市の子供からお年寄りまで全て含めて一人当たり年間753円、10年間で7千530円の負担になる。
プラゴミだけでこれだけのお金がかかるというのは、決して小さな数字ではないとは思うが、財源をけちってプラゴミを燃やすよりは環境に配慮しており、誇るべきことではないか。リサイクルをしっかりできていれば、という留保付きではあるが。
そこで、横浜市が委託しているジャパンリサイクルへ行ってみることにした。
住所を調べたところ最寄り駅は、千葉市内の蘇我駅である。そこから徒歩15分程の距離に同社はある。事前にアポイントを取ったところ、同社の柏倉氏は、「蘇我駅の改札を出て、右に曲がってタクシーに乗ってください。運転手は会社名を言えば必ずわかります。改札を出て左には絶対に行かないでください。左手のタクシーはうちの社名わかりませんから。工場敷地内は広いので、歩いては来ないでください」という。
こうして9月8日昼過ぎ、蘇我駅に着き、タクシーに乗った。「ジャパンリサイクルお願いします」というと、運転手は「わかりました」といい、車を走らせた。しばらく行くと、「JFEスチール 東日本製鉄所」という銘板のゲートをくぐった。ジャパンリサイクルとは、JFEスチールの100%子会社なのである。
その敷地内は異様に広く、信号機や線路もあり、工場が並び、錆びてボロボロの外装のパイプラインが碁盤の目のように敷地のあちこちで伸びている。
後で知ったが、敷地総面積はなんと765.9万平方メートル、東京ドーム164個分もある。少し前までは隣接するサッカーチーム・ジェフユナイテッド市原のホームスタジアム「フクダ電子アリーナ」の一帯も製鉄所の敷地内だったというから膨大な広さである。
敷地を実に10分近く走り、茶色の外壁の屋根にデカデカと「JFEスチール」のロゴが掲げられた建物の前で、タクシーは止まった。よく見ると、玄関に小さな字で「ジャパンリサイクル株式会社 千葉リサイクルセンター」と書いてあった。中に入り、同社の柏倉氏に話を聞いた。
柏倉氏によると、同社では、横浜市のプラゴミを年間約1千トン処理しており、他にも、千葉県の松戸市や柏市、東京都の三鷹市、葛飾区などの自治体のゴミも処理しているが、それらは全体の年間7万トンの処理量からみると微々たるもので、メインは木くずなどの産業廃棄物だという。
同社の特徴は、プラスチックや産廃からガスを取り出して、そのガスを製鉄所に送って発電に使っている点だという。それは「サーモセレクト方式ガス化溶融炉」といって全国に7つしかない。
これは酸素を吹きかけ2千度の発熱で分解してガス化させる。プラスチックが入ることで、これほどの高温となる。溶けた金属やがれきは、下に落ちてメタルやスラグとなって回収される。他方、ガスは上昇し、再び酸素を吹き込み1200度まで下げて2秒以上保持させることでダイオキシンを分解。その後、一気に70度に急速冷却することで、クリーンな燃焼ガスと硫黄等を精製する。このリサイクル施設では、二酸化炭素を一切出さない。ただし、精製した燃料ガスは、敷地を通るパイプラインを通って敷地内にあるズンドウ型の巨大タンクに貯蔵され、燃やして発電の燃料に使われる。
この発電するとき、二酸化炭素が大気に放出させる。
要するに、横浜市のプラゴミが何の役に立っているかというと、仮にリサイクル時にプラゴミを使わないと、プラスチックの代りに重油を使わなければならない。この重油の分が、リサイクルにより浮く。
話をきいた後、リサイクル施設を回ってみた。施設の周りには、産廃のトラックが並び、その横に、四角い塊が並んでいる。これは、「ベール」と呼ばれる。ベールとは、横浜市などで家庭のプラゴミを収集した後、専門業者が選別してプレスして1メートル立方メートルに圧縮したもの。つまり、ベールの状態でここに持ち込まれる。そのベールを、解体して、木くずなどの産業廃棄物とともに、前出のように酸素を吹き込んでいく。
なお、「この辺りは撮らないで下さい」と柏倉氏の言った地点には、小さめのタンクロータリーがあった。「これは醤油なんです」という。なんでも、タンクには醤油会社の不良品の醤油が入っているそうで、醤油は塩が入っているので燃やすと焼却施設に物質がついたりで厄介な代物だが、ここの施設なら、プラスチックで高温になり過ぎるときに、醤油でカロリー調整して温度を下げるために便利なのだという。
こうして見学を終えた。プラゴミをただ焼却施設で燃やしてしまうより、ここでリサイクルする方が、環境に役立っていることは明らかであろう。
今、プラスチックなよる海洋汚染が世界的関心事になっている。(例えば、ニューヨークタイムズで1か月間に何度もクロ―ズアップされたりしている)。そうした中、横浜市の取組みは誇っていい実績といえよう。日々プラゴミを分別している市民に対し、プラゴミの行方をちゃんと報告すべきである。(佐々木奎一)