平成二十八年十二月十九月付、のauのニュースサイト
EZニュースフラッシュ増刊号の「朝刊ピックアップ」で記事
「ホリエモン文春にギャラ請求とイエロージャーナリズム」
を企画、取材、執筆しました。
ホリエモンこと堀江貴文氏が、テレビで週刊誌にギャラを請求したという。それは16日放送のTOKYOMX「5時に夢中!」という番組でのこと。出演した堀江氏は、8日発売の週刊文春で報じられたことについて突っ込まれた。
その週刊文春の記事というのは、堀江氏が11月22日未明、妖艶な雰囲気の美女と手をつないで六本木の高級ホテルに入るところを同誌が撮影したというもの。その後の取材で、そのお相手は女性ではなく、「女装男子」と呼ばれる男性のなかのカリスマで執筆やタレント活動をしている大島薫氏(27)だと判明。(週刊文春電子版より)
そのことを共演者から盛んに聞かれた堀江氏は、「恋人ではないです」と否定したあと、こう言った。
「ぶっちゃけ、記事出すんだったら、俺にも印税よこせって思いますよね」「印税出してくれるんだったら、『ここまでOKよ』とか、そういうのはアリだと思う」「20%とかさ、バックしろよって話ですよ。見てるか文春の記者!」「だって俺がネタじゃないですか! 何で俺に入ってこないんだお金が」(サンケイスポーツ電子版より)
このタレントの肖像権と週刊誌については、興味深い判例がある。それは平成24年2月2日に最高裁判所第一小法廷で判決が下った、いわゆる「ピンク・レディー事件」である。(ピンク・レディーとは昭和51年から昭和56年にかけて活躍した2人組のアイドル歌手)
事件の概要は次の通り。平成18年秋頃からピンク・レディーの曲の振り付けを利用したダイエット法が流行していた。そんな中、「女性自身」(光文社刊)が平成19年2月13日・27日号の16〜18頁に、「ピンク・レディーdeダイエット」という記事を掲載し、ダイエットの解説や効果を記した文面とともに、水着姿のピンクレディーらを被写体の白黒写真(縦7cm、横4.4cm)や、18頁の下半分には「本誌秘蔵写真で綴るピンク・レディーの思い出」という見出しに、ピンク・レディーの白黒写真(縦9.1cm、横5.5cmなど計7枚)を掲載するなど、合計14枚の白黒写真を無断掲載した。
これに対し、ピンク・レディーの2人が、光文社を相手取り、パブリシティ権が侵害されたとして不法行為に基づく損害賠償(計372万円)を求めた。
一審、二審ではピンク・レディーが敗訴。最高裁でも敗訴した。最高裁判決(裁判長: 櫻井龍子、裁判官: 宮川光治、金築誠志、横田尤孝、白木勇)では、「人の氏名、肖像等(以下、併せて「肖像等」という。)は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有する」「そして、肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は、肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、上記の人格権に由来する権利の一内容を構成する」として、パブリシティ権をみだりに利用するのは違法であるという原則を指摘したうえで、こう述べた。
「他方、肖像等に顧客吸引力を有する者は、社会の耳目を集めるなどして、その肖像等を時事報道、論説、創作物等に使用されることもあるのであって、その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるというべきである」
「そうすると、肖像等を無断で使用する行為は、1 肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、2 商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、3 肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である」
「これを本件についてみると、前記事実関係によれば、上告人らは、昭和50年代に子供から大人に至るまで幅広く支持を受け、その当時、その曲の振り付けをまねることが全国的に流行したというのであるから、本件各写真の上告人らの肖像は、顧客吸引力を有するものといえる。
しかしながら、前記事実関係によれば、本件記事の内容は、ピンク・レディーそのものを紹介するものではなく、前年秋頃に流行していたピンク・レディーの曲の振り付けを利用したダイエット法につき、その効果を見出しに掲げ、イラストと文字によって、これを解説するとともに、子供の頃にピンク・レディーの曲の振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するというものである。そして、本件記事に使用された本件各写真は、約200頁の本件雑誌全体の3頁の中で使用されたにすぎない上、いずれも白黒写真であって、その大きさも、縦2.8cm、横3.6cmないし縦8cm、横10cm程度のものであったというのである。これらの事情に照らせば、本件各写真は(中略)本件記事の内容を補足する目的で使用されたものというべきである。
したがって、被上告人が本件各写真を上告人らに無断で本件雑誌に掲載する行為は、専ら上告人らの肖像の有する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえず、不法行為法上違法であるということはできない」
このように判定した。なお、金築裁判官の補足意見として、「顧客吸引力を有する著名人は、パブリシティ権が問題になることが多い芸能人やスポーツ選手に対する娯楽的な関心をも含め、様々な意味において社会の正当な関心の対象となり得る存在であって、その人物像、活動状況等の紹介、報道、論評等を不当に制約するようなことがあってはならない。そして、ほとんどの報道、出版、放送等は商業活動として行われており、そうした活動の一環として著名人の肖像等を掲載等した場合には、それが顧客吸引の効果を持つことは十分あり得る。したがって、肖像等の商業的利用一般をパブリシティ権の侵害とすることは適当でなく、侵害を構成する範囲は、できるだけ明確に限定されなければならないと考える。(中略)パブリシティ権の侵害による損害は経済的なものであり、氏名、肖像等を使用する行為が名誉毀損やプライバシーの侵害を構成するに至れば別個の救済がなされ得ることも、侵害を構成する範囲を限定的に解すべき理由としてよいであろう」という。
そして「肖像等の無断使用が不法行為法上違法となる場合として、本判決が例示しているのは、ブロマイド、グラビア写真のように、肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合、いわゆるキャラクター商品のように、商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付する場合、肖像等を商品等の広告として使用する場合の三つの類型であるが、これらは(中略)従来の下級審裁判例で取り扱われた事例等から見る限り、パブリシティ権の侵害と認めてよい場合の大部分をカバーできるものとなっているのではないかと思われる」
「なお、原判決は、顧客吸引力の利用以外の目的がわずかでもあれば、『専ら』利用する目的ではないことになるという問題点を指摘しているが、例えば肖像写真と記事が同一出版物に掲載されている場合、写真の大きさ、取り扱われ方等と、記事の内容等を比較検討し、記事は添え物で独立した意義を認め難いようなものであったり、記事と関連なく写真が大きく扱われていたりする場合には、『専ら』といってよく、この文言を過度に厳密に解することは相当でないと考える」
と、記している。このように、タレントの肖像権に顧客吸引力はあり、その力によって雑誌が売れる効果があっても、それが報道の一環であれば、パブリシティ権侵害には当たらない、という。たとえその報道が、娯楽的な関心だったしても、それは社会の正当な関心なのだという。
このように出版社に寛大な判例が出ているのは、一重に、「言論の自由」のため、といえよう。
よって、冒頭の堀江氏のいう、週刊誌が、顧客吸引力のある自分の写真や名前をのせて商売をしているのだから、ギャラをよこせ、という主張は、判例上通らないということになりそうである。
なお、こうした「娯楽的関心」、言い換えれば「下世話」を報じるのも、正当な関心だしても、それは、時事、社会問題を報じ、検証し、道を示す、という意味での「真のジャーナリズム」ではない。下世話をせっせと報じる週刊誌やワイドショーの類は、「イエロー・ジャーナリズム」である。
イエロー・ジャーナリズムとは、「扇情的な記事な見出しを使い、低俗な興味を誘う報道をいう。1890年代のニューヨークで、ピュリッツァーの『ワールド』紙とハーストの『ジャーナル』紙が報道合戦を演じ、人気のあった色刷り漫画『イエロー・キッド』を作者(R・F・アウトコールト)ごと奪い合うほか、セックス、スキャンダル、犯罪を書き立てて部数競争を行ったことから、この種の新聞は『イエロー・ペーパー』とよばれるようになった。両紙の競争は、スペインのキューバ植民地支配についても、事実を曲げ、事件を捏造(ねつぞう)するなど激化し、アメリカ・スペイン戦争(1898)を誘発する一因となったといわれた」(日本大百科全書より)
そして、この手のイエロー・ジャーナリズムの蔓延は、いわゆる真のジャーナリズムをむしばんでいるのが実体といえよう。たとえば、これはほんの一例だが、労働事件の過労死について、世に出回るニュースの定番は、大手企業で起きた過労死事件である。これは、中小零細企業では過労死事件が起きていないのではなく、中小企業で起きた過労死は、報じられないのである。なぜか。無名の企業の事件は、人々の関心が低いから、需要が少なく、読まれない、よって商売にならないので、報じる価値がない、と判断しているからである。
だが、日本の企業の99.7%は中小企業であり、日本の全労働者の7割は中小企業で働いている。だから、本来、中小企業で起きている現実こそ、問題の核心なのに、報じられない。過労死という社会問題そのものではなく、大企業で起きたことなのかどうか、が関心の的になってしまっている。イエロー・ジャーナリズムである。無論、過労死だけではない。万事、この調子である。
イエロー・ジャーナリズムが国を席巻するのは、下世話なことにしか関心のいかない国民と、その国民におもねる言論界の、下劣なハーモニーのたまものといえよう。
だが、言論の自由の真髄は、イエロージャーナリズムをせっせと報じることではない。国家権力を監視し、国民の知る権利に応える、といった「本物のジャーナリズム」にこそ真髄がある。この国は、言論の自由を使いこなせていない、といえよう。(佐々木奎一)
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