2016年11月24日

“トランプ現象”と世界の未来

 平成二十八年十一月十八月付、のauのニュースサイト


   EZニュースフラッシュ増刊号の「朝刊ピックアップ」で記事 


 「“トランプ現象”と世界の未来」


 を企画、取材、執筆しました。



 トランプがアメリカ次期大統領になることが決まったことで様々な推察がされている。例えば、13日付の日本経済新聞朝刊の記事「トランプ現象、連鎖止めよ――20世紀、独裁者の歴史が警鐘」には、「反グローバル化の感情や経済的不安をあおる。共通の敵をつくり人気を得るポピュリズム(大衆迎合)の手法は、かつてのファシストや独裁者を思わせる(中略)心配なのは、この乱暴な手法が他国に伝染しかねない点だ。(中略)フランスの極右政党、国民戦線(FN)のルペン党首はトランプ勝利が伝わると、すぐに歓迎する声明を出した。仏次期大統領の有力候補との見方もあるだけに、追い風になると見ているようだ。

 ドイツでも反難民を掲げる民族主義政党が急伸し、メルケル政権への批判を強めている。中欧オーストリアでは難民対策を巡って国論が二分し、来月の大統領選挙で極右政党の候補が当選する可能性も出てきている。

 東欧のポーランドやハンガリーでは『強い国家』の復活を掲げた指導者が排外的なナショナリズムに訴え、強権的な政権が誕生している。排外主義、保護主義が広がれば、英国の離脱決定で揺らいだ欧州連合(EU)の結束にも、さらに悪影響が及ぶ」とある。

 そして、「防波堤になるのは、やはり歴史からの警告だろう」として、「大恐慌後の30年代、危機を脱しようと、保護主義がはびこり、閉鎖的な経済圏が分立した。共産主義陣営とファシズム陣営が激しく対立し、ついに戦争が始まる。歴史の教訓に学ばず、トランプ現象の連鎖を止められないようでは、世界はいよいよ激動の20世紀前半に似てくる」という。

 そうした20世紀前半の状況に似てきたのは確かといえよう。ただし、この記事では、あたかも他国だけで“トランプ現象”がおきているかのような書きぶりであるが、日本も例外ではない。その肝心要に触れていない点が、あんこの入っていないタイ焼きのような記事であり、いかにも政府に配慮した御用記者クラブメディアらしい。

 要するに、安倍自公政権もご多分にもれず、敗戦前回帰を鮮明にしており、日本は歴史の教訓に学ばなければ危ういのは確かである。

 なお、この状況をもっと巨視的に分析する識者もいる。11日付の朝日新聞朝刊に、「近代世界システム論」を唱え、現代世界の構造的問題を百年単位の時間軸で分析したというアメリカの社会学者イマニュエル・ウォーラーステインのインタビュー記事がある。氏はこう語っている。以下、抜粋。

 ――なぜトランプ氏が登場したのでしょうか。

 「背景には多くの人が職業を失い、経済的に苦しんでいるという事情があります。でも、米国はもはや世界の製造業の中心地ではなく、何もない中から雇用は作り出せないし、(苦しむ人を支えるために)社会保障を拡充するには税収を上げる必要がある。今は高揚感が広がっていますが、トランプ氏の支持者も1年後には、『雇用の約束はどうなったのか』と思うのではないのでしょうか」

 ――米国の民主主義に危機が訪れているのでしょうか。

 「米国では現在、四つの大きな政治集団があります。共和党主流派が属する中道右派と、ヒラリー・クリントン氏に代表される中道左派の双方は、今回の選挙で弱体化した。あとは、より極端に右に行った排外的な集団と、バーニー・サンダース氏に代表される左派のポピュリストの集団があります」

 「右にしても左にしても、先鋭的な集団は内側からの批判を恐れ、どんどん極端になっていく危険性があります。また、現段階で世論調査をすれば、四つの集団はそれぞれ25%程度の支持を得るかもしれません。それだけに、予測がつきにくく、コントロールも難しい状況と言えるでしょう」

 ――欧州でもブレグジット(英国のEU離脱)のようなポピュリズムのうねりが起きています。先進国共通の問題でしょうか。

 「世界経済が芳しくなく、多くの人々が苦しんでいるのは間違いありません。苦しい状況を生み出した『仮想敵』を攻撃することで、『国を再び良くする』と約束する政治集団は各国にたくさん存在し、今後も増えるでしょう。ただ、それぞれの国で、必ずしも多数派の人が賛同しているわけではないのも事実です」

 そして、こうある。

 ――教授の言うように「近代世界システム」は衰退していくのでしょうか。

 「現在の近代世界システムは構造的な危機にあります。はっきりしていることは、現行のシステムを今後も長期にわたって続けることはできず、全く新しいシステムに向かう分岐点に私たちはいる、ということです」

 ――その移行期における日本の立ち位置はどうなりますか。

 「新しい世界システムが生まれるまでは、古いシステムが機能し続けます。資本主義システムのルールの下で覇権を奪い合う競争を続けることになる。その参加者としては、米国のほか、ドイツを中心とした西欧グループと、極東アジアのグループが理論的にはあり得ます」

 「中国、韓国、日本の3カ国は言葉はそれぞれ違いますが、バラバラにする力よりも統合する力の方が強いように思える。確かに日本の現政権は、中国や韓国との関係を深めることに熱心には見えません。過去についての謝罪が必要な一方で、自尊心がそれを困難にしているのでしょうが、地政学的に考えると、一つにまとまる方向に動くと私は考えています」

 同氏はさらにこう語る。

 ――現在のシステムの後に来るのは、どんな世界でしょう。

 「新しいシステムがどんなものになるか、私たちは知るすべを持ちません。国家と国家間関係からなる現在のような姿になるかどうかすら、分からない。現在の近代世界システムが生まれる以前には、そんなものは存在していなかったのですから」

 「その当時もやはり、15世紀半ばから17世紀半ばまで、約200年間にわたるシステムの構造的危機の時代がありました。結局、資本主義経済からなる現在の世界システムが作り出されましたが、当時の人がテーブルを囲んで話し合ったとして、1900年代の世界を予測することができたでしょうか。それと同じで、西暦2150年の世界を現在、予想することはできません。搾取がはびこる階層社会的な負の資本主義にもなり得るし、過去に存在しなかったような平等で民主主義的な世界システムができる可能性もある」

 ――楽観的になって、良い方の未来が来ると思いたいですが。

 「ですから、それは本質的に予測不可能なのです。無数の人々の無数の活動を計算して将来を見通す方法は存在しません」

 「一方で、バタフライ効果という言葉があります。世界のどこかでチョウが羽ばたくと、地球の反対側で気候に影響を与えるという理論です。それと同じで、どんなに小さな行動も未来に影響を与えることができます。私たちはみんな、小さなチョウなのだと考えましょう。つまり、誰もが未来を変える力を持つのです。良い未来になるか、悪い未来になるかは五分五分だと思います」

 と、氏の言うように、今、私たちは分岐点に立っているといえよう。無論、未来がどうなるかは定かではない。だが、トランプが勝った背景には、アメリカ社会の民主主義の行き詰まりがある。そして、日本の民主主義も、行き詰まっている。

 例えば、舛添要一前都知事が、週末に別荘の温泉に通っている、とか、政治資金でタマゴサンドを買った、などという類のことで、政治家、新聞、テレビ、雑誌、ラジオ、ニュースサイト、そして国民が、違法行為をしたわけでもない舛添氏を、まるで大犯罪人でもあるかのように情緒的に袋叩きにして辞職に追いやったのは、記憶に新しい。この現象は、日本の民主主義が行き詰まり、衆愚主義に陥っている象徴といえよう。

 では、どうすればよいか。民主主義は、崇高な理念を持つ。だが、理想と現実は、違う。たとえば、誰しも平等に権利を持つ、という理念により、教育をちゃんと受けていない者・受けてもすっかり忘れ去っている人と、教育をしっかり受けて歴史の教訓に学べる人が、現状では平等に一票を投じる権利を持っている。そして、現状は、前者が後者より圧倒的に多い。だから、衆愚政治に陥る。

 それゆえに、投票権は、感情に支配されず理性的な判断する能力や、憲法等の法律の素養、歴史的教訓を学ぶなどの歴史の素養、政治、社会学の素養、搾取をしないといった倫理的素養といった教育の習得度に応じて、ある人は1,000票の権利を持ち、ある人は1票の権利を持つ、といった具合に差をつけていく必要があるのではないか。民主主義の理念を社会に実現するためには、制度のなかで理想が現実に追いついていない部分は、現実的に修正する。そうした「民主主義のブラッシュアップ」(磨き上げてさらによくすること)が必要なのではないか。(佐々木奎一)


PS かつて尾崎咢堂が、普通選挙法が導入されるとき、「日本ではまだ早い」と言っていた。その時、先送りした課題は、いまなお我々日本人の前に立ちはだかっているように観える。

posted by ssk at 17:54| Comment(0) | 記事
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