この「原子力講演と映画の会」という読売新聞社主催のイベントの社告のでた翌月、1949年7月2日には、そのイベントの講演者の一人に名を連ねる東大助教・吉川春寿の手記が出た。タイトルは「原子力と癌 原子医学の現状 放射性同位元素の新品」。
そして、その翌月8月19日に、にわかに、こんな告知が出た。
それは点線の四角囲みで、「原子力文明」とあり、こう告知している。
「読売新聞社科学部編(近刊)時代の寵児『原子力』について、理論と実際の両面から、現代および将来にわたって興味深く説いてある。電車のなかでも、ねころんでいても気らくに読める手ごろの科学解説書(八〇円、高山書院刊)」(写真)
要するに、自分のところで出す本の広告である。それにしても、讀賣新聞による、電車のなかでも、ねころんでいても読める原子力の解説書とは、一体どんな本なのか――。
そこで通販サイト・アマゾンで売っているかもしれないと思い調べてみると、該当する本はヒットした。が、タイトル「原子力文明(1949年) 古書」とあるが、本の表紙の写真すらなく、「この本は現在お取り扱いできません」となっている。
一体どんな本なのか。さらに調べてみると、国会図書館で読めるようなので、行ってきてた。
その本の表紙は、右下に「高山書院」、左上に「讀賣新聞科学部編 原子力文明」とあるのみのシンプルの極致のデザイン。(写真)
冒頭の「はしがき」は、こうはじまる。
「原子力の発見は、熱源としての太陽がもつ秘密の発見である。二十世紀文明は、原子力を中心としてくりひろげられるにちがいない。
原子科学の理論は、もちろん、原子力の本質を知るに必要であるが、原子力に直接関係があるのは、実験物理学における原子核の研究である。原子核の研究は、ベックレルが一八九六年ウラニウムの放射線を発見したときに」云々と続き、「一九三三年にはアメリカのローレンスによって原子核破壊実験装置としてのサイクロトンがつくられ、ついに原子爆弾の発明にまで発展した。
この間僅か五十年、この原子力知識の発展に信頼するならば、近い将来における原子力の平和的利用に刮目すべきものあるは、論をまたないであろう。発電に、交通機関に、医学に、家庭燃料に、農業に、その実用化は、すでに時日の問題となっている。特に工業への活用は、かつての産業革命も及ばない大規模なものとなり、それによる生産力の発達は、人類の思想と生活に大きな変革をもたらすであろう」
と、夢がかたられている。
(続く)