こうして記事が削除されたため、これまで七回にわたり「ブラック企業『市場大路』記事削除の真相」を記し、今、八回目に至る。
なお、控訴審以降の経緯を記す。
2013年10月21日に、前橋地方裁判所で、市場大路の完全敗訴判決が下った。
その後、市場大路は控訴した。
これに対し、原告の草津泉美氏も、附帯控訴した。(附帯控訴とは、民事訴訟法上、被控訴人が控訴審の手続中に、控訴に付帯して原判決に対する不服を主張し、自己に有利に変更を求める申し立て。(ブリタニカ国際大百科事典小項目事典より))
付帯控訴の内容は、市場大路に対する支払い額を、一審判決の50万2500円から、60万9500円に変更するよう求める、というもの。
もともと50万2500円の内訳は、慰謝料30万円、未払い給与20万2500円だった。そこから退職に対する所定書類の交付を行わなかったなどの求職活動の妨害による損害金として、請求額を10万7千円増やし60万9500円とした。
こうして2014年3月11日15時、東京高裁第二民事部で、第一回目の控訴審の期日があった。裁判官は、佐久間邦夫裁判長、林正宏・蓮井俊治裁判官。
この場で、翌月の4月24日13時10分に、判決が言い渡される事が決まった。
つまり、裁判所は、高裁で一切審議する必要はない、と判断した。審議をしない、ということは、市場大路が完全敗訴した一審判決が覆るとは、考えにくい。
そうした中、控訴審判決が迫る4月16日の10時半、にわかに、和解が成立したのだった。
和解内容は次の通り。(控訴人とは市場大路。被控訴人とは原告の草津泉美氏)
「1. 控訴人は、被控訴人に対し、本件和解金として、41万4575円の支払義務があることを確認する。
2. 控訴人及び被控訴人は、前項の金員が支払い済みであることを相互に確認する。
3. 被控訴人は、その余の請求を放棄する。
4. 本件和解条項に定めるもののほか、何らの債権債務のないことを相互に確認する。
5. 訴訟費用は、第1、2審を通じて各自の負担とする」
このように書いてあった。なお、「本件和解金として、41万4575円」とあり、「前項の金員が支払い済み」とあるが、これは、一審の判決文には、第一項に「被告は原告に対し、金50万2500円を支払え」とあり、「この判決は、第1項に限り仮に執行することができる」とあるので、その中の41万4575円が、既に原告に支払われたと見られる。なぜ、50万2500円とあったのに、41万4575円しか支払われていないのかは、裁判文書に記載がないので定かではないが、既に払われている金額でもって、和解を成立させた点が、原告の、もう市場大路とは関わりたくないという思いが滲み出ている観がある。
もともとこの事件は、労働審判から始まっていた。(労働審判とは、平成18年4月1日から始まった手続で、解雇や給料の不払など、事業主と個々の労働者との間の労働関係に関するトラブルを、迅速かつ適正に解決することを目的としている。具体的な方法は、労働審判官(裁判官)1人と労働関係に関する専門的な知識と経験を有する労働審判員2人で組織された労働審判委員会が、労働紛争を原則3回以内の期日で審理し、適宜調停を試み、調停による解決に至らない場合、柔軟な解決を図るための労働審判を下す、という紛争解決手続。労働審判は裁判での判決に類する。この労働審判に対して当事者から異議の申立てがあれば、労働審判はその効力を失い、労働審判事件は訴訟に移行する。(参考:裁判所HP))。
この労働審判により、市場大路が草津氏に対し、一審判決より低い金額の支払いで解決する、という審判が下った。しかし、市場大路が異議を申し立てたため、調停は決裂し、裁判に移行した。つまり、もともと草津氏側は、長期戦となる裁判をしたくはなかった。そういう意味合いのことが草津氏側の裁判文書に書いてあった。
こういう経緯があるので、既に払われている金額でもって和解を成立させたのは、もう市場大路とは関わりたくない、という原告の気持ちが表れているように見えるのである。
要するに、控訴審でも、市場大路の言い分が採用された形跡はないまま、裁判は終結した。よって、市場大路の記事削除要請には根拠がないので、筆者の記事「深夜3時まで「尻軽女!!」と罵倒した社長のブラック体質」を削除するわけにはいかない。
この事件については、今後、gooの時のようなプロバイダを通しての記事削除要請や、記事削除の仮処分や提訴といった裁判沙汰になった場合に、続報する。