そんな菊地正士の記事「原子力と交通機関 期待される数十年後の世界」」には、こうある。
冒頭、昨年末にアメリカのオークリッジ原子工場の博士が「原子力航空機の理論は99%まで完成されている」との注目すべき発表をした、といい、この博士は構造には言及しなかったが、一般専門家の間では、「従来の動力装置とは異なった“核ロケット”(ニュクリアー・ロケット)という特種な装置」が使われるものとみられているという。
また、「アメリカ原子科学界は、すでに自動車の発動機に放射能ピストン・リングを適用する実験に成功しているといわれる」といい、「原子力の工業的利用は既に時間の問題となっている」といっている。
さらに、「原子力の利用価値が高度に発揮されるものは、交通機関の動力としての応用であろう」と、話を進め、「現在発電所として設計されているのは(中略)原子力の応用としては序の口にすぎない」と言い捨てている。
これは、前出の武田栄一・東京工業大助教の手記「原子力の平和的利用」のなかで、航空機などへの応用は技術的に困難なので、発電こそ原子力の最も手近な用途である、と言ったことを、「序の口」扱いしたに等しい。
さらに菊地正士は、こう記している。
「交通機関に応用された場合、これが真にその価値を発揮するのは、水上あるいは地上を動く機関よりは、空を飛ぶ航空機にあることは、想像に難くない。
というのは、船や汽車あるいは自動車のようなものは、ある程度、完成に近いものである。ほかのいろいろの理由によって、そのスピート(中略)に制限がある。自動車が町の中を一時間何百メートルというようなスピードで走ってみたところで、人迷惑になるだけである。また、船のごときはいかにエンジンを用いたところで、水上にあるという理由によって、ある程度制限を受ける。
これに反して、航空機は(中略)無現に進歩の可能性がある」
そして、こう夢物語を描いている。
「現在の船のごとく大型の航空機が、原子力によるロケット式の何億馬力というエンジンによって地球の大気層の外へ出て、一時間何千メートルのスピードで走ることも今では夢ではない。
現在、サンフランシスコ、東京間は二十余時間を要するが、これを何十分の一かに短縮して、アメリカとの往復は、現在我々が電車で郊外から丸の内へ通うよりも気軽にできる時が来るかもしれない」
そして、「一番の困難」は「放射線の人体に及ぼす害の対策にある」としながらも、この問題は、医学の研究で解決されるかもしれぬし、大きな航空機をつくり放射線を隔離するなどで解決できる、と楽観視した上で、こう記している。
「何十年何百年後の人類は、必ず、そういった文明の利器の恩恵をこうむることであろう。また、その頃にもなれば、地球に住む人類にとって、この上ない魅力である地球外の天体との交通問題も、具体的な技術計画として取り上げられるであろう」
そして、「原子力に対する恐怖解決へ」という小見出しで、こう記している。
(続く)