平成二十七年十月四日、auのニュースサイト
EZニュースフラッシュ増刊号「潜入! ウワサの現場」で記事
「横浜市にみる歴史修正教育の実態」
を企画、取材、執筆しました。
「歴史修正主義」という言葉がある。意味は、「1 歴史に関する定説や通説を再検討し、新たな解釈を示すこと。2 一般的な歴史認識とは異なる解釈を主張する人、またそうした言動を否定的にいう語」である。(デジタル大辞泉(小学館刊)より)
歴史修正の動きは、教育現場でみられることが多い、とよくいわれる。。そこで横浜の教育現場で近年起きた事件を掘り下げてレポートする。
高校の教科書の定番「詳説 日本史B」(山川出版社刊、2012年発行)は、関東大震災(1923年9月1日)の混乱の情景を囲み記事で紹介している。そこにこういう一節がある。
「地震と火災の大混乱で、『朝鮮人が暴動をおこした。放火した』との流言(りゅうげん)がとびかい、政府も戒厳令を公布して軍隊・警察を動員したほか、住民に自警団をつくらせた。関東全域で徹底的な『朝鮮人狩(が)り』がおこなわれ、恐怖心にかられた民衆や一部の官憲によって、数千人の朝鮮人と約200人の中国人が殺害された」
これは「朝鮮人虐殺」として日本の歴史に刻まれている。その表記を巡り、近年、横浜市で事件が起きた。
横浜市内の市立中学校では、教科書以外に、「副読本」と称する、市教育委員会が作成した冊子を授業で使っている。それは「わかるヨコハマ」という縦20cm、横15cm、A5判の冊子。
教科書の場合、「教科書検定」制度によって、文科省の審査に合格しなければ世に出すことはできない。だが、「副読本」は、自治体の判断で、国の審査を経ず自由に「準教科書」の扱いで教育現場で使うことが許されている。つまり、使い方によっては教科書検定制度を無視した「抜け道」に成り得る。
この「わかるヨコハマ」は2009年度に発行し、市立中学一年生全員に配布している。
そこには朝鮮人虐殺について、「自警団の中に、朝鮮人や中国人を殺害する行為に走る者がいた」と書いてある。「徹底的な朝鮮狩り」という前出の山川出版の表現に比べ、極めてマイルドで、虐待がなかったかのような表記である。しかも、山川出版には、官憲も朝鮮人を殺したと書いてあるのに比べ、副読本には、自警団のみがやったかのようにしか記載されていない。この副読本で教わると、歴史的事実を曲解する恐れが強い、と言わざるを得ない。そういう教材で横浜の中学生は教わっている。
そうした中、2012年に、にわかに副読本が改定された。
「東京湾岸・相模湾一帯は大きな被害を受けた。東京や横浜のほとんどが壊滅状態になり、火災と余震に襲われ続けた市民は不安にかられてた。この混乱のなかで、『朝鮮人が井戸に毒を入れる、暴動を起こす』などというデマ(根拠のない噂)が流された。2日、政府は軍隊の力で治安を維持するため東京に戒厳令を適用した」
ここまでは前年と同じで、そのあとに以下の一文が加筆された。
「デマを信じた軍隊や警察、在郷軍人会や青年会を母体として組織されていた自警団などは朝鮮人に対する迫害と虐殺を行い、また中国人をも殺傷した。横浜でも各地で自警団が組織され、異様な緊張状態のもとで、朝鮮人や中国人が虐殺される事件が起きた」
この記述は、山川出版をはじめとする歴史教科書からみれば、ごくごく標準の内容である。
だが、この動きを産経新聞が問題視した。12年6月25日、同紙は一面で「『軍や警察 朝鮮人虐殺』 横浜市教委、書き換え 中学副読本、事務局独断」という見出しで報じている。リードには「歴史認識に関わる改訂にもかかわらず、一部の事務局職員の判断で行われた。今後も恣意(しい)的な“修正”が相次ぎかねず、文部科学省の検定を経ない副読本の課題が浮かび上がった」とある。
本文には、「市教委によると昨年、旧版の記述について市立中の元社会科教諭から『誤った見解』と繰り返し修正を求められ、これを執筆者に伝えた。書き換えは監修する市教委事務局の社会科指導主事の判断で行われた」とある。
この記事から約1か月後の2012年7月19日、横浜市会で自民党の横山正人市議が、このことを取り上げた。
すると、市教委の山田巧教育長は、「指導主事が改訂に当たっての決裁をとるときに課長の承認で済ませてしまった」と言い、「震災全体の被災状況ですとか横浜市の状況をわかりやすくするといったことを意図して改訂」したが、「結果として、その表現ですとか文脈、構成などによって誤解を招くような内容」があった、「虐殺という言葉は非常に強い、一定の主観が入った言葉だと考えておりますので、この部分については、例えば従前の表現に戻すといったことで改訂していきたい」といい、「2013年度版では改めて」もとの表記に直すと明言した。
さらに、改定した暁には、「今年度、既に中学校1年生に配っております2012年度版は回収した上で、来年度1年生になる子と来年度2年生になる子と、2年度分の『わかるヨコハマ』を配付していきたい」と述べた。
その後、「虐殺」という表記に改定した職員は懲戒処分で「戒告」となり、実際に回収して改訂版を配布した。
そこで筆者は、横浜市教委に対し、このときの一連の経緯を記した内部文書を情報公開請求した。すると44枚の文書が開示された。
例えば上記の市会から約2か月後の2012年9月25日に、各市立中学校長に通知した文書には、こうある。
「横浜においては朝鮮人等に対する迫害と虐殺に軍隊や警察が関与したとの資料は見つかっておらず誤解を招きかねないので、この点に留意して指導すること」。
「中学生の心身の発達段階を考慮し、『虐殺』という語句については、『殺害』という言葉に置き換えて指導すること」
また、虐殺というワードを消した13年度改訂案には、「2012年度版は東京の状況についての記述が詳しすぎたので、改訂版では横浜の状況に重点を置く」「2012年度版は朝鮮人殺害の記述が焦点となる印象がもたれていたが、改訂版では震災での被災の状況、復旧・復興の状況についても既述する」「<具体的内容>・東京での、軍隊、警察による関与は既述しない。・『殺害』『迫害』の語句は用いず、『殺害』と既述する」
また、懲戒処分文書によると、「戒告」処分をうけた職員は、指導部指導企画課長・A氏。処分発令日は2012年9月28日。処分理由は「担当者から改訂内容について報告を受けた際、改訂箇所の表現をよく確認せず、文脈や構成に誤解を招く部分を含んだまま原稿内容を確認するとともに、文書による起案・決裁の指示を欠いた」とある。
ちなみに、副読本「わかるヨコハマ」は、これ以降、今も同様の表記のまま使われている。(佐々木奎一)
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