広島、長崎で原爆を投下されて敗戦した日本は、GHQにより原子力の研究が禁止された(※1:1945年10月31日、連合国が日本での原子力研究の禁止を指令。同年11月、サイクロトロン(加速器の一つ。磁場の中で円運動をしているイオンを同じ周期の高周波電場によって加速して、1000万〜数億電子ボルトのエネルギーをもつようにする装置。放射性同位体の製造や原子核の人工破壊に用いる。広辞苑第六版より)の理化学研究所の2基、大阪大学2基、京都大学1基が連合軍に破壊される。こうして原子力の研究開発は禁止となったが、原子核の実験研究は当初は申請制だったが、1947年1月の極東委員会の決議で禁止された。(「福島事故に至る原子力開発史」(原子力技術史研究会編、中央大学出版部、2015年2月)より)。そのため、讀賣新聞の、敗戦直後の原発報道は、もっぱら海外の動向だった。
例えば、「関係者公判近く開始 カナダ原子力秘密漏洩事件」(同年2月19日付)、「英科学者逮捕さる 原子力スパイ事件」(同年3月6日付)、「米原子力管理案可決」(同年7月28日付)、「原子力兵器実験場 太平洋に建設中 米原子力委員会」(47年7月25日付)、「米、放射性イソトープ公開 ト大統領 原子力の平和的利用声明」(同年9月11日)、「米、新原子力兵器を製造中」(同年12月4日付)、「膨大な原子力計画 米、優越的地位の確保に全力」(48年3月18日付)、「ソ科学者、原子力に新発見」(48年6月2日付)などなど。
そうした中、こういう広告があった。本題からやや逸れるが、興味深いので紹介する。
それは「フランス式特殊原子力美顔法 美顔器」という広告。47年6月4日、8月3日、9月24日付の讀賣新聞朝刊にある。
「今美容界で大評判の美顔器、色白くなりたい方は本器により、より美しくなられよ!ニキビ、ソバカス吹出物シミ(中略)は美しく生まれ変わる」、「効能」は「美白の推進」「ニキビ ソバカス」、「皮下細胞の働きを活発にす」などとある。
東京都文京区内の株式会社 東京美化学研究所という会社の商品。アヤシイ。
話を戻す。
48年8月1日付讀賣新聞朝刊には、「原子力と平和」と題し、仁科芳雄という人物の顔写真付きの手記を載せている。
実はこの人物、戦中、日本で原爆の研究をしていた。陸軍「原爆開発計画」の責任者の物理学者・仁科芳雄である。仁科にちなみ、「二号研究」といわれた。場所は理研の四九号館。ここでウラン濃縮のための装置である熱拡散塔の建設が行われた。初めて予算がついたのは1941年4月。8万円の研究費だった。1943年には東条英機の命令で航空本部直轄研究に位置づけられた。(「クロニエル 日本の原子力時代一九四五〜二〇一五年」(常石敬一、岩波書店、2015年7月)より)
しかも、この仁科は、戦中、こんな記事がある。それは讀賣新聞1940年11年18日付朝刊の「科学の子放射男<宴Wウム飲む実験 研究室街へ進出」という記事。
それによると、「人口ラヂウム≠嚥下して放射性人間≠作るという珍しい公開実験が十八日午後一時から九段軍人会館で開かれる『紀元二千六百年記念理研講習会』席上仁科芳雄博士によって行われる」とあり、こう書いてある。
「人類の敵癌の治療に神秘的効果を謳われ一グラム二十五万円という高価な天然ラヂウムに代る人口ラヂウムは我国でも仁科博士らにより数種の成生と研究が進められている、当日の公開実験は博士自ら壇上に立って説明するが先ず理研のサイクロトロンで重い水素原子を(中略)ぶっつけて製造された人工ラヂウム十分の一グラムをコップ一杯の水に溶かして仁科研究室の小使さん加藤弥太郎(五一)さんが実験体になって嚥下する、人工ラジウムは血液の中に潜り込んで約二分後には全身に行きわたり、頭からも手足からも全身いたるところから放射線を後光のように放ち始め所謂珍しい放射性人間≠ェ出現する
この放射線は目に見ることが出来ないので宇宙線測定に使用する『ガイガー・ミュラー計数管』を通してポツリポツリとなる音に変えて聞かせることになっている」
「仁科博士は語る『(中略)人工ラヂウムは嚥下した場合一時的に多少白血球が減るが、すぐ回復することは研究ずみでこの実験を公開するのは初めてのことです」という。(※旧仮名遣い、旧字体は、現代仮名遣い、現代の字体に修正している。読点、改行がなく読みずらいと判断した場合、適時、読点、改行をしている。以下、同)
ラジウムについての参考文献:
緊急被ばく医療研究センター「ラジウム 226 とは」
http://www.nirs.go.jp/hibaku/info/ra226_0930.pdf
原子力資料情報室(CNIC)「ラジウム-226(226Ra)」
http://www.cnic.jp/knowledge/2602
(続く)
※実験台となった加藤弥太郎氏の年齢三一を、五一に訂正しました。(2015/12/4)
※1を加筆しました。(2015/12/5)
※美顔器について、6月4日、9月24日付の広告も加えました。(2015/12/7)