2015年11月23日

TPPと亜米利加

 平成二十七年十一月六日付、のauのニュースサイト

  EZニュースフラッシュ増刊号の「朝刊ピックアップ」記事 


 「TPP協定文書の中身」


 を企画、取材、執筆しました。



 けさの各紙は「TPP協定文書公表 ポイントは 全30章 幅広い貿易ルール」(朝日新聞)、「TPP域内 ビジネス活発に 協定案全容」(日本経済新聞)といった見出しで、TPPについて報じている。

 それによると日米など12か国(日本、アメリカ、オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナム)は昨日、TPP(環太平洋経済連携協定)の協定案の全容を公表した。文書は英文で本文、付属文書合わせ1500ページに及ぶ。

 これにより、当初から懸念されていた日本の農業は、「『聖域』であるコメなどの関税を維持することができた」が、「高い関税を維持する代わり、米国と豪州向けに7.8万トンの無関税輸入枠を新たに設ける。輸入は義務ではないが、輸入が不調な場合に日米、日豪間で話し合う」「野菜や果物、水産物の大半の関税を撤廃し、牛・豚肉の関税を引き下げる」という。(朝日新聞)

 また、「参加国による協定違反があった場合、損害を被った投資家が国連の仲裁機関などを通じてその国を訴えられる『ISDS手続き』が盛り込まれた」という。この「ISDS条項」も当初から懸念されているが、同紙によると、「韓国経済に詳しい高安雄一・大東文化大学教授(経済学)は、『米韓FTA(自由貿易協定)でもISDSによる訴訟乱発が懸念されたが、実際にはまだ1件もない。TPPにはそれと同等以上の乱訴の防止策がある。協定に違反するようなことをしなければ、問題は起きにくいのではないか』と分析している」という。

 著作権保護については、「著作物の保護期間は、著作者の死後50年から70年に延長された」「同人誌などの即売会『コミックマーケット(コミケ)』など2次創作への影響が懸念された著作権侵害の非親告罪化は、『市場において利用する権利者の能力に影響を与える場合』に限定された。福井弁護士は『萎縮効果はある程度抑えられたが、対象を海賊版に限定するべきだ』」という。

 また、国民皆保健制度の崩壊も懸念されたが、「制度は維持されることになった」という。

TPPは原則自由化だが、「外為法や建設業法、弁護士法など約60分野の根幹の規定は変えずにすむこととなった」「日本で活動する外資系企業も引き続き日本国内のルールに沿って活動することになる」(日本経済新聞)、「労働者の権利を、自国の法律で採用することを明記。最低賃金や労働時間を定めた法律をつくることを盛り込んだ」(朝日新聞)という。

 このようにTPPでこの国の形が一変するのではないか、という不安の声もあるが、ひとまずは国の形は保たれるように書いてある。だがその一方で、こういう一文もある。

 「公表された合意の全容は参加各国が批准後に発効する。合意文書では発効から3年以内に12カ国全体のルールを見直すことに言及している」。

 つまり、今後どうなるかは予断を許さない。

 ちなみに、民主主義国家であるはずのアメリカでは今、国民の「裁判をする権利」が失われるという、にわかには信じ難い事態に陥っている。

1112日付のニューヨークタイムズによると、ゆりかごから墓場まで、例えば妊娠出産の医療、教育、住宅、携帯電話、インターネット、車、銀行、クレジットカード、病院、老人ホーム、墓などなどのあらゆる「消費契約書」や、「労働契約書」の大半に、紛争になった際は裁判ではなく仲裁で処理すること、という「仲裁条項」が定められている。これにより、医療過誤や、詐欺、欠陥商品、事故や、職場のハラスメント、サービス残業、リストラ、過労死といった労働事件に遭った消費者、労働者が、会社を訴えた場合、裁判所は、仲裁により解決してください、と言って裁判を終わらせてしまう事態になっているという。

 仲裁というのは、会社の顧問弁護士や米国仲裁協会とJAMSという大手仲裁会社等を通して選定される「仲裁人」により紛争を解決するという制度。仲裁は密室で行われており非公開だが、同紙の調査によると、多くの仲裁人にとって、消費者・労働者よりも会社の方が年に何度も顔を合わせる大事な顧客なので、仲裁の結果は、えてして会社に有利な判定が下りることが多い。

 いうまでもなく日本では、日本国憲法第三十二条で「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪われない。」と明記しているが、TPP名の下、国境が消えたかのように、アメリカの「法の崩壊」の事態が日本でも起こりかねない。(佐々木奎一)


posted by ssk at 20:12| Comment(0) | 記事
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