2015年09月04日

検証記事(大渕愛子弁護士に対する筆者の記事を検証した記事)

 2013年11月13日付でマイニュースジャパンで筆者が取材執筆した記事「『行列』大渕愛子が弁護士法違反で懲戒請求される→告発者の自宅に突然、名誉棄損で警官4人が押し掛け私物を差し押さえ」について、現在、大渕氏がマイニュースジャパン、同社社長・渡邉正裕氏、筆者・佐々木奎一を相手取り、名誉棄損で訴えて係争中の事件について、このたび、大渕氏より、記事の根幹を揺るがす新証拠が提出されたため、仮処分以降の経緯と併せ、ここに検証記事を掲載する。


 なお、先に結論からいうと、当該記事と関連記事合わせ4本の筆者の記事をマイニュースジャパンから削除することに合意した。責任を持てない記事を取材執筆して掲載して、ご迷惑をおかけしたことをお詫びする。


■取材の経緯

 筆者がこの事件を取材した経緯は、陳述書に記載した通り、A氏(女性、40代)からの情報提供がきっかけだった。


 ただ、当時、A氏からの一方的な情報に基づくのを避けるため、筆者は大渕氏に、箇条書きで事細かに質問した。もし、大渕氏に反論があれば、「ここは本当はこうだ」という具合に、返事がくる、と踏んでいた。


 この時点で、大渕氏から具体的な反論が来れば、A氏、大渕氏、双方の言い分を検証し、記事にするのを見合わせるか、あるいは、再取材してもっと詰めたうえで掲載したことだろう。特に、後述のように、それから一年後に大渕氏が、にわかに提出したA氏が送金したことを示す通帳と、膨大な量のA氏とのメールのやり取りの証拠のうち、ほんの一部でもいいので、この時点で示していれば、あのような記事が出ることはなかった。その点が痛恨事である。


■仮処分の経緯

 大渕氏が記事削除の仮処分を申請し、一回目の審理で、記事削除の命令が出たのは当時、報じた通り。(13年12月25日付「『行列』『朝ズバ』の大渕愛子、弊社記事の削除を求め東京地裁に仮処分命令を申し立て」、13年12月27日付「『行列』『朝ズバ』大渕愛子の弁護士法違反めぐる記事で、東京地裁民事第9部の鈴木雄輔裁判官が仮処分命令」)


 その後、筆者は、12年1月26日付で「大渕愛子が相手方プライバシー情報を勤務先の複数上司に漏えい、左遷させる 「弁護士職務基本規定」違反の無法弁護士ぶり」を取材執筆して以降、この事件について、沈黙を守ってきた。その理由は、以下の事情からだ。


 一回目の仮処分決定を不服として、こちらが保全異議申し立てをしたことにより、12年2月、東京地裁で2回目の審理が始まった。


 そのとき、筆者は裁判長の部屋に呼ばれた。その裁判長の名前は存じ上げないが、30代と見受けられる男性だった。その裁判長は、筆者に対し、この仮処分のことを記事にすると、大渕氏側は、証拠を出せない、と言っている。だから、今後は、仮処分のことについて記事にはしないということを約束してほしい、という意味のことを言った。


 筆者としても、大渕氏がこれまで具体的な根拠を示さず、A氏の言い分は事実無根と主張しているのをみて、「是非、そこまでいうなら証拠を出してほしい」と切に願っていたところだったので、裁判長に対し、「そういうことであれば、仮処分のことは記事にはしません」と約束した。(本訴に入り、この仮処分とは比較にならないほど大量の証拠が出されたことと、読者への説明責任を果たすため、このたび仮処分の経緯を記すことにした)


 この裁判長との約束のあと、大渕氏側は、証拠を出してきた。ただ、それは、A氏と大渕氏とのやり取りのメール4通と、銀行の通帳などで、どちらも、95%以上、黒塗りにしたものだった。それをみて筆者は、メールについては、あまりにも黒塗りが多くて判断しずらい面もあると思ったが、後述のように通帳については、どちらの言い分が正しいのか、見極めるための「リトマス試験紙」にするには打って付け、と判断した。


 そう思っていた矢先、仮処分の審理は急転したのだった。


 裁判長は、筆者と当時の代理人である「神田のカメさん法律事務所」の太田真也弁護士を部屋に呼び、A氏が太田弁護士を通じて東京弁護士会に出している、大渕氏に対する懲戒請求が、仮処分と並行して審理が進んでいることなどを理由に、和解するか、異議申し立てを取り下げて、仮処分ではなく正式な裁判で審理した方がよいのではないか?もしくは、裁判所が決定を下すということならば、異議棄却の決定をする根拠も覚悟もできている、三つのうちどの道にするかよく考えて決めてほしい、という意味のことを述べた。


 裁判長の部屋を辞した後、筆者は、渡邉氏に判断してもらった方がよいと思い、太田弁護士に渡邉氏に電話をかけてください、と言い、太田弁護士が渡邉氏に事情を説明した。その会話のなかで、太田弁護士は、大渕氏に対する懲戒請求の事件について「なんとしても懲戒相当を取りたい!そのためには、仮処分で2回目の負け(異議申し立ての棄却)の結果はどうしても避けたい。だから、仮処分に対する異議申し立てを取り下げてほしい」と何度も言った。そのたびに、渡邉氏は、最高裁を含め最大4回、仮処分で勝負できるのに、みすみすこちらから取り下げるのは納得できない、と言っている様子で、話は平行線となり、1時間以上、そういう会話が続いた。審理が始まったのが夕方だったこともあり、裁判所が門を閉める時間となり、外に出るよう言われてからも、二人の会話は続いた。結局、太田弁護士の熱意に根負けしたような形で渡邉氏はしぶしぶ仮処分を取り下げることに決めた。


 この仮処分の保全異議申し立ての取り下げの決断の数日後、筆者は、事件の真相を知るため、大渕氏が仮処分で出した資料について、A氏に電話で質問した。


 そのなかで、特筆すべきは、まず、大渕氏のメールの証拠のなかに、訴状のドラフトについての記載があった点だ。


 そもそも筆者の記事には、A氏が大渕氏に依頼したのは10年6月で、その後、訴状のドラフトを作成したのは翌11年3月下旬以降の時期と記している。これはA氏提供の資料からそう判断したためだ。しかもA氏の大渕氏に対する懲戒請求書には「受任後1年1ヶ月近く経過した時点で、やっと『訴状のドラフト』が作成されるに至った」と明記している。


 だが、大渕氏が提出した10年9月7日22時32分付のメールには、A氏が大渕氏に対し「件名:ご報告と訴状の修正箇所について」の下に、「大渕先生」という書き出しのあと、「訴状の内容で修正していただきたい点ですが、以下の2箇所、確認していただけますか?」「3ページ目、■■(※筆者注:黒塗り箇所は■■と表記。以下同)の3〜4行目」「訴状5ページ目、■■」「以上です。他の連絡事項については、後ほどまたメールします」とある。10年9月7日ということは、大渕氏に依頼してから3か月に満たない時期だ。


 さらに、10年10月7日11時16分付のA氏が大渕氏にあてたメールには「件名:訴状の確認と、電話連絡についての質問です。」とあり、本文には「大渕先生 取り急ぎ、まず訴状他の書類について確認しましたのでご報告します。■■に関する請求ですが、■■については削除で問題ありません。あと、■■したために発生した損害についてですが、■■意味で、請求したほうがいいのでしょうか?」とある。


 このように、A氏のいう訴状のドラフトの作成時期と、上記メールの記載には、約半年から10か月もの齟齬がある。これは一体どういうことか?


 その点についてA氏に聞いたところ、A氏は「早くからやっていたのは示談交渉で、訴訟の準備ではなかったです」という。そこで筆者は「電子メールで(2010年)9月7日時点で、『訴状の内容で修正していだきたいのですが』というようなこと、書いてますよね?」と聞いた。


 すると、A氏は「ああ、それはしょっちゅう、ありましたから」「ドラフトは最初から出しています」と述べた。


 「最初からというといつ頃からですか?」と筆者が聞くと、A氏は「いや、もう8月位じゃないですか」「ただ、作ったからといって、出さないと意味がないので(略)訴訟の提起をしていないのでは全く意味がないですよね。つくるだけですと、素人だけでもつくれますから」と言った。


 このように、大渕氏の証拠をみせた途端、A氏は、懲戒請求に書いてあることと、実際は違い、依頼から1、2か月後には、訴状のドラフトを作成していたことを認めた。つまり、A氏が事実とは違う主張をしていたことになる。


 次に、「リスマス試験紙」である通帳についてである。


 そもそも、着手金については、A氏は懲戒請求書や筆者の取材では、初めて大渕氏と面談した10年6月21日から数日後に10万5千円を支払い、6月26日以降、これに加えて、着手金26万2500円を支払った、と主張している。


 それに対し、大渕氏の通帳の証拠には、「22年6月2日 A 105,000」「22年7月20日A 151,000」とあるのみ。


 もしもA氏の言い分が正しければ、この通帳の証拠が偽造である可能性が出てくる。それに、A氏の方でも振り込み明細を持っているはずなので、どちらの言い分が正しいのか、判断しやすい。


 そこで、筆者はこの通帳の証拠はどういうことかを問うたところ、A氏はこう言った。


 「あの、それは、太田弁護士にこの間、お電話で言ったんですけど、分割でたぶん、渡している、ていたような気もするので、あの、一度で払えなくて」「お金が足りなくて、私、父から送金してもらってるんですけど、そのときに、それで送金した記録は残っていたので。父から送ってもらって、太田弁護士に渡してあります」


 そこで筆者は「じゃあ、送金した事実はあるわけでね?分割して?」と聞いた。


 A氏は「いや、ただ、それは、大渕弁護士に父が直接送ったのではなくて、私にいったん送っているので」「金額は合うんですけど、日にちはずれちゃいますよね。その、振り込む前とか、現金で払う前に送ってもらっているので」と回答をした上で、A氏は自身が使っている銀行名を言ったあと、「一年以上経つと、基本的にもうないんですよ、記録が」「取り寄せてもらうと、裁判所から、まあ、出して、ということになれば、出ると思うんですけど。だから、それは、そういうときになったら、出ると思います」と言った。


 筆者は、着手金が10万5千円プラス26万2500円という金額は本当に間違いないか、と念を押したところ、「それはないです。なぜかというと、最初の10万5千円というのは、最低着手金ということで、ホームページにも書いてあったんですよ。そのあとに、訴訟の際の、金額、着手金、成功報酬どれくらいかかるか、私が聞いたときに、請求300万円にするので、その8%が必要です、といわれた。なので24万円、プラス税金、プラス実費」と言った。


 このA氏との会話の後、筆者は、太田弁護士に電話をし、「A氏に対し、銀行に以前の振り込み明細を出してもらうよう、言ってもらえますか?」と聞いた。無論、ここでA氏が分割で、着手金26万2500円を2回に分けて払っているという物証が出れば、大渕氏の通帳の証拠が偽造だったということになる。これはわかりやすい上、決定的な材料、と筆者は判断したからこそ、太田弁護士に打診したのだ。太田弁護士は、納得してすぐに動いてくれるに違いない、と筆者はてっきり思っていた。


 しかし、太田氏弁護士、それはできません、と言った。なぜですか?と筆者が聞くと、太田弁護士は、こう答えた。


 「それはA氏の利益に反するからです」


 それを聞いた途端、筆者は、A氏と太田氏に、言い知れぬ不信感を抱き、少なくとも、この通帳については、A氏と太田氏は嘘をついているのではないか、と疑い、筆者は、思わず、「そんなことをしていたら、あなたは裁判所から信用されなくなるぞ!!」と激こうしてしまった。翌日、筆者は、仮にも代理人の弁護士に対し、あのような失礼な言い方をしてしまったことを反省し、太田氏に対して、昨日は感情的になってしまいすみませんでした、と謝罪した。


 なお、この仮処分が終わった段階では、通帳やメール数通の証拠という、かすかな窓を通してしか大渕氏の反論の根拠が見えず、全容は定かではない。だが、おそらく、裁判を通し、大渕氏側は、仮処分で出した証拠を改めて出してくるに違いない、それを通し、状況がもっと明らかになってくることだろう、と筆者は思った。


 そして、そのような大事な裁判が始まろうしている中、このまま、太田弁護士をこちらの代理人にしていると、通帳の証拠で上記のように不可解な対応をしたA氏・太田弁護士と、筆者は運命共同体になってしまう、と危機感を抱いた。


 もともと、筆者はA氏の言っていることが違う事が発覚すれば、率直に非を認め、記事を訂正するつもりでいる。A氏と筆者は全く立場は違う。むろん、A氏の利害に従う筋合いはない。


 それに、書き手として、今後いつまた別の裁判の当事者になるかもしれない身でもある。そこで常々思っていることは、筆者が裁判の当事者になった場合は、正直にいきたい、という点だ。だからこそ、通帳の証拠に対する、A氏、太田弁護士の対応は、心底、不本意だった。


 それだから、太田弁護士は、筆者の代理人には全く相応しくない、本訴に入るに当たり、他の弁護士に代えたい、と切実に思った。


 すぐにそのように渡邉氏に伝えたところ、渡邉氏は、すぐに代えるつもりはない、という姿勢だった。


 筆者は、そのままズルズル代理人をかえずに裁判が進むことを恐れた。そこで、こう提案した。太田弁護士によると、大渕氏への懲戒請求の結果は、14年5月頃には出る予定だが、そこでもしも、A氏が負ければ、太田弁護士は、懲戒相当をとるとあれほど言っていたのに、結果を出せなかったことになる。A氏が懲戒請求で負けた場合、こちらの裁判も、そのまま太田弁護士でいっても、こちらの勝ち目はない。だから、懲戒請求でA氏側が負けたときは、そのタイミングで太田弁護士から別の弁護士に代えて、こちらの被害を最小限に抑えるよう提案し、渡邉氏は納得した。


■裁判の経緯

 14年春となり、裁判の期日がスタートした。大渕氏は、訴状で、マイニュースジャパン、渡邉氏、筆者を相手取り、筆者の記事を名誉棄損として、以下の三点を請求した。


 1 記事を削除せよ。


 2 被告らは連帯して500万円を支払え。


 3 筆者のブログに掲載した記事の記載を削除せよ、筆者は100万円を支払え。


 こうして裁判が始まる中、14年5月には、A氏自身が原告となり、大渕氏を相手取り、裁判を起こした。(証拠品の返還と200万円超の損害賠償を請求)


 その後、太田弁護士は、何度か、A氏の事件と、こちらの事件を併合したい、と打診した。そのたびに筆者は、「まず、懲戒請求の結果を待ちましょう」と言った。しかし、筆者は内心、通帳の一件以来、あの調子では懲戒請求の方も難しいだろう、と思い、来るべき時に備え、新たな弁護士を探し始めたのだった。


 その後、こんなことがあった。筆者が14年6月、別件の取材をするなかで、偶然、太田弁護士と同姓同名の人物が民事事件で訴えられているのを知った。その裁判資料を調査したところ、太田弁護士本人だった。そこには、太田弁護士が、裁判の相手側の行政書士や代理人などに対し、ブログ記事の仮処分や、懲戒請求、損害賠償の訴訟を乱発し、相手側も応戦するなかで、太田弁護士に対し「懲戒相当」の議決が下っていると書いてあった。


 つまり、大渕氏を何としても懲戒相当にさせたい、と熱心に訴えていた当の本人が、実は別の事件で懲戒相当だったということになる。


 14年7月、ついにA氏・太田氏の大渕氏に対する懲戒請求の結果が出た。A氏の請求は棄却された。A氏の負けである。


 これを機に、太田氏から、用賀法律事務所の村瀬拓男弁護士に代えた。


 村瀬弁護士には、これまでの経緯を説明し、こちらの被害を最小限にして裁判を終わらせてほしい、と依頼した。


 その後、筆者とは別の執筆者により、大渕氏のことが様々報じられ、マイニュースジャパンの姿勢は変化していったが、そのことについて、筆者は一切関知していない。


 なお、14年8月には、筆者らが被告の今回の事件とは全く別の事件により、太田弁護士に対し「業務停止1か月」という重い懲戒処分が下ったことも明らかになった。


 その後、審理が進むなか、14年11月に入り、にわかに、大渕氏が、大量の証拠を出してきた。


 証拠の多くはメールで、その数、実に43通。そのなかには仮処分時に出してきたメールも含まれている。仮処分のときは黒塗りで内容の詳細が不明だったが、今回は、ほとんど黒塗りのないメール全文を出してきた。


 なお、後述のように、これらのメールについてA氏に取材したところ、A氏は、多くは身の覚えのない偽造メール、との認識を示した。


 そして、A氏は、「ヘッダ全部とメールファイル本体を大渕弁護士に開示させるべきです」「メールヘッダで送信者や送信元を確認しないとあのようなコピーでは『なりすまし』も見抜けません。私宛に2010年秋に着ていたインフィニティ(筆者注:大渕氏の以前の法律事務所名)を名乗るメールには送信者名とアドレスが偽造されているものが1通ありました。メールの場合はヘッダ全文とファイルスタンプなどを確認しなければ正確性は断定できません」とした上で、「証拠類などを検証せず、書いた覚えのないメール文を書いたことを前提とした陳述書等を出される場合、名誉毀損の可能性もあるとのことですので十分に事実確認を行った上で進まれたほうがいい」と回答した。


 だが、メールのヘッダで、偽装メールかどうか、判断することが本当にできるのだろうか?疑問を感じた筆者は、いくつかの専門機関に聞いてみた。すると、一般財団法人 日本データ通信協会の人は、「ヘッダ情報のみで、偽装メールかどうか判断するのは難しい」「ヘッダー情報は、知識を持っていれば改ざんは可能」という。また、一般社団法人日本インターネットプロバイダー協会にも聞いたところ、「プロバイダの人か、技術の管理の人などの専門家なら、偽装メールかどうか、わかるかもしれない」と、正確に判断するのは極めて難しいという説明だった。


 これらの専門家の話からして、メールが偽装ではないことを科学的に完全に見分けるのは至難の業である。なお、村瀬弁護士によると、「メールは現在の裁判実務では、ねつ造したとの反論を、証拠を添えて行わない限り、証明力の高い証拠として扱われる」という。


 なお、これまで筆者は色々な取材で数々の裁判資料をみてきた。そのなかにはメールの証拠も多々あったが、メールの証拠に、ヘッダをつけているケースは見たことがない。


 今後、A氏の洞察通り、裁判所がこれらの新証拠のメールを採用しない事態も起こらないとは言い切れないし、A氏が原告の事件はこれから高裁で係争されることになるので、そのなかで、A氏の言うように大渕氏のメールが偽装であることを、裁判所が認定する事態もあるかもしれない。


 その意味で、メールの証拠は偽装の可能性はないとは言い切れない。だが、専門家ですら、偽装でないことを証明するのは極めて難しい中、筆者が見分けられる可能性は限りなくゼロに近いため、A氏のいうヘッダを確認せよ、との案は採用しないことにした。仮に、筆者がヘッダをみることにした場合、それが紙でもし印刷されたものなら、それは偽装することは可能だし、こちらが仮に大渕氏のPCの実物をみて、メールのヘッダを確認できたとしても、もしA氏のいうように偽装をしている場合なら、こちらが見に行く前に、整合性のとれたヘッダのメールを送るはずである。


 それに、印刷であれ、現物であれ、こちらがヘッダの情報を確認した結果、正確なことはわからない場合、それをもって、A氏が偽装の根拠とするかもしれない。だが、このような真相確認が困難なケースで、偽装の主張の根拠になりかねないA氏の案には乗れないと筆者は判断した。


 それに今回の裁判に限らず、証拠というのは、大なり小なり、偽装でないことを完全に証明するは困難である。(余談だが、裁判の偽証罪は、現状、証人尋問でのみ適用となっているが、証拠にも適用した方がいいのではないか、と筆者は思う)。


 要するに、A氏が偽装と訴えるメールの証拠を、最終的にどう判断するかは、裁判官にゆだねられる。筆者の任ではない。


 そうしたことを前提とした上で、このたび、大渕氏が出した証拠のメールのなかでもっとも筆者が重視したのは、「リスマス試験紙」である銀行口座の通帳である。前述した、着手金の齟齬を示す通帳以外に、今回、新たな通帳が提出されたのである。


 それは、A氏がいったん、11年8月に大渕氏との契約を解除した後、同年冬、改めてA氏が、顧問料に相当する3万1500円を大渕氏の口座に振り込んでいることを示したもの。これがもしも事実であれば、A氏の訴えでは、大渕氏が一年以上にわたり、提訴もせずに契約終了に至ったことや、契約から数か月後に、顧問料として月3万1500円をぼったくられたとして懲戒請求して、筆者の取材でもそのように訴えたにもかかわらず、その案件放置の契約終了後に、顧問契約を再び結んで、顧問料を振り込んでいたことになる。もしもそういうことであれば、A氏は大渕氏を頼っているわけなので、A氏の訴えの根幹が揺らぐ。その意味で、この証拠は極めて重要といえよう。


 通帳には具体的には、「23年11月7日 A 31,500」「23年12月7日 A 31,500」「23年1月16日 31,500」と記載があり、ほかに領収書控えで平成23年10月1日付で31,500円をA氏に渡したとの証拠がある。


 また、この時期には、顧問料以外にも、領収書の控えが証拠として提出されている。


 例えば、「入金先A 様 No・216 5,250― 但 法律相談料として 入金日平成23年10月1日」「入金先A 様 No・225 5,250― 但 法律相談料として 入金日平成23年10月13日」「入金先A 様 No・250 15,750― 但 書面作成料として 入金日平成23年11月10日」などなど、1か月に2回程度、法律相談を受けていること示す証拠が出ている。


 なお、顧問料の振り込みが12年1月までなのに対し、法律相談料名目の領収書の控えは、12年2月、3月、4月と、途切れなく支払い続けている。そして、12年4月10日には、顧問料名目の31,500円の領収書控えもある。


 A氏に取材したところ、この間の顧問料や相談料の支払いの証拠についてA氏は、「2011年9月以降に私が大渕弁護士に払ったのは、2012年5月の合意書の直前の日程調節の際と、その前の電話問い合わせの際の費用の2回のみです。その際の請求メール、領収書などの関係証拠は代理人に預けていますのでご確認ください」と、証拠にある支払いの事実関係については全否定した。


 また、通帳についても聞いたところ、A氏は、こう回答した。


 「印刷内容について言えることは、通帳からは誰がどういった方法で確かにその氏名の本人が送金したかどうかは確認できない、ということです。例えば架空名をもって現金で振り込めば一定額以下であれば特に本人確認チェックは入らない場合があるのではないか、と指摘されました」と回答した。要するに、通帳の印字のA氏の名は、架空の人物がA氏をかたった可能性がある、という意味と見受けられる。ということは、この時期に、大渕氏の口座に、A氏以外の何者かがA氏になりすまし、顧問料分の金額月31,500円を3か月にわたり振り込んでいたことになる。こんなことがあり得るだろうか。少なくともこの点については、A氏の言い分は、にわかには信じがたい。


 つまり、自然に考えると、この間、A氏は、大渕氏に、顧問料を振り込んでいたとみるのが、妥当といえよう。ということは前述のように、案件放置の契約終了後、A氏は再び顧問料を結ぶほど大渕氏を頼りにしていたことを窺わせるので、A氏は実は、言っていることとは違う動機で大渕氏に懲戒請求をするに至ったのではないか、という疑念も出てくる、といわざるを得ない。そのことが筆者が記事削除に合意するに至った一番の要因である。


 なお、太田弁護士にも取材し、この通帳の顧問料記載の証拠について、どうお考えか、と聞いたところ、そちらで通帳の現物をみて確認してほしい、ということだった。そこで筆者は、ではこちらで通帳を確認してA氏の顧問料振り込みが確認できれば、太田弁護士はどうしますか?A氏の非を認めますか?と聞いたところ、「仮定の話には答えられない」の一点張りだった。


 なお、その後、筆者らの現代理人である用賀法律事務所の村瀬拓男氏が、通帳原本を確認したところ、大渕氏の証拠の通り記載されており、偽装の形跡はなかった。


◇メールの証拠について

 大渕氏のメールの証拠については、A氏が、何者かに尾行されたり、街を歩いていて殴られたり、脅迫電話を受けたり、自宅に張り込まれたりしたという、にわかには信じ難い相談をし、大渕氏はそれを真っ向から受け止めて対応している事を示すメールや、顧問契約がスタートした10年秋、損害賠償以外の相談が多いためか、A氏から顧問契約の話をしたことを示すメールや、労働問題なども相談していたことを示すメールや、法テラスで会った弁護士のアドバイスを機に、大渕氏への懲戒請求をにおわしながら、新たな顧問契約を結ぼうとする内容のメールなどがある。


 これらのメールは、慰謝料請求の案件以外に、大渕氏に種々相談していたことを示しており、そこから考えると、大渕氏はA氏のいうように案件放置にはしておらず、むしろ、A氏の相談に応じていたことを伺わせる。


 ほかには、A氏の訴えでは、慰謝料請求の終了は、A氏が金銭に窮してしたことが理由だったが、実際は違うことを示す内容のメールもある。


 こうしたメールの真偽は定かではないが、仮にたしかな場合、A氏は、色々な脅迫メールなどを相談するなかで、大渕氏の応対に好感を抱くようになっていった、つまり、好きになった。そして、顧問契約を何度も結んでいることからして、心理的に大渕氏にすっかり依存する状態となっているように見受けられる。だが、労働問題の相談の頃から、大渕氏が、労働事件の専門ではないことや、テレビの仕事が増えて忙しかったことも重なり、以前に比べ、A氏の相談の対応が遅くなっていった。そのことにA氏が不満を持ちはじめる心理が窺われる。そして、懲戒請求をちらつかせ始めた。もちろんそれは、このメールが実在している、という仮定の話ではあるが、このメールをみた大渕氏は、さぞやゾッとしたことだろう。このメールはクレーマーかつストーカーの臭いが文面からただよっているためだ。


■A氏の一審敗訴判決

 この新証拠が、大渕氏側から提出されてから約2か月後の15年1月16日、A氏が原告の裁判の一審判決があった。判決では、A氏が請求した@動産(証拠書類等)の返還請求、A不当利得(追加支払いの着手金25万2500円、顧問料・相談料の28万350円)の返還請求、B不法行為(大渕氏が、警察を動かして捜査させたこと)による慰謝料・損害賠償162万9415円の全てが棄却された。


 裁判所の判断理由は、@全証拠をもってしても、A氏が大渕氏にそれらの動産を渡した事実、及び大渕氏がそれを持っている事実が認定できない。また大渕氏から脅迫されたことの証拠はない。AA氏が大渕氏に支払った顧問料や相談料には、それぞれ契約等の根拠があり、不当利得にはならない。それ以外に支払ったという主張は、A氏自身が本人尋問で否定している。そして、@Aともに、A氏が大渕氏と結んだ「和解合意書」により、そもそもそれらの請求権は存在しない。B大渕氏は、被害届を警察に提出しているが、その内容は、A氏を被疑者として特定したりするような内容であるという証拠はない、というものだった。


 ここでいう、「和解合意書」とは、12年5月8日、A氏と大渕氏が交わしたもので、この文書については、A氏も認めている。この合意により、A氏は、慰謝料請求案件の契約期間の顧問料として10か月分(10年11月〜11年8月)の顧問料31万5千円を大渕氏から返還させた。この合意書の条項には、A氏が腑に落ちないとする一切の事項その他該当期間に生じた一切の事項について解決したものとする、と定めた他、「原告と被告は、本件合意書の締結により本件につき一切解決したことを確認し、原告被告間には、本件に関し、本件合意書に定める内容を除き、何らの債権債務がないことを相互に確認する」と定めている。


 さらに、この和解合意書には、こういう条文もある。合意書の「甲」はA氏、「乙」は大渕氏なのだが、第4条(禁止事項)には、「甲は、理由の如何を問わず、乙及び乙の関係者に対して、次の各号に該当する行為をしてはならないものとする。(中略)(1)電話、手紙、ファクシミリ、パソコン、携帯その他一切の通信手段を用いて連絡すること (2)住居または勤務先を訪問すること (3)名誉または感情を害する事項をその知りえる状態に置くこと (4)他人を介して、または匿名にて本条各号の行為を行うこと」とあるのだ。


 この文面からは、もうA氏とは一切かかわりたくない、近寄らないでほしい、という思いが滲み出ており、ストーカーに対する文面のようである。


 さらに、第5条には「クレームの禁止」とあり、「甲は、理由の如何を問わず、如何なる第三者に対しても、平成22年6月23日から本合意書の締結日までに乙が担当した甲の案件(乙の事務所名が「法律事務所インフィニティ」であった期間も含む)および乙の運営に関して、如何なるクレームも申し立てない」とある。これはまさにクレーマーに対する文面そのものである。


 それにしても、このような合意書を交わしておきがら、A氏は、太田弁護士に代理させる形で、大渕氏に懲戒請求したのは、明らかにメール違反ではないか。その点について、A氏はこう回答した。


 「2011年2月頃に私が大渕弁護士にクレームをしたという趣旨のメールがあったように思いますが、その時期に私はすでに法テラス契約弁護士からの勧めで大渕弁護士への紛議調停事件の申立てをして法テラスからも援助決定が出ています。援助決定通知書の日付は2011年2月6日です。


 この時期に給与未払いで労働事件もありましたので、労働事件は迅速に動ける太田弁護士に依頼して(着手金は解決できた際に精算という条件で)無事未払い額ほぼ全額が認められて解決しました。


 この労働審判の際に会社に取引先として2011年10月頃から出入りしていたアムール法律事務所事務局長(当時本人は事務所を辞めて会社を立ち上げた、と挨拶して名刺ももらっています。ただし会社は調査したところ未登記でした)から私の委任事件内容が会社に漏らされていたことが労働審判の進行中に相手方会社の証言からわかりました。


 もともと大渕弁護士への懲戒請求のきっかけは合意書を交わした後に上記守秘義務違反の問題が発覚したためです。その他の事情も多くあったためどれが懲戒事由にあたるかの判断は弁護士がしています。


 しかし法テラスで相談した際の複数弁護士の見解も太田弁護士の見解も全員同じでした。つまり弁護士からみて懲戒に値する理由はあったということだと思います」


 だが、このA氏の言い分が仮にその通りだとしても、懲戒請求をしたことは、和解合意で定めた約束を破る行為であることに変わりはない。


 太田弁護士にも、和解合意したのになぜ懲戒請求したのか、と質問したところ、太田氏は、あの和解合意文書には穴がある、あの文書には、第三者を介して懲戒請求をすることを禁じてはいない、という趣旨の回答をするのみだった。


 なお、このA氏の一審判決文には、筆者が「リトマス試験紙」とした、A氏のいう、着手金25万2500円を振り込んだとの言い分について、「これを認めるに足りる証拠はない」と断定していた。


 なお、この着手金の齟齬について、太田弁護士に質問したところ、太田氏は、A氏は手渡しなどの振り込み以外の方法で支払っている、という意味の事を言っていた。だが、それなら、仮処分の取り下げ直後に、筆者がA氏に質問した時、A氏は、裁判所にいって銀行に開示させれば振り込んでいたことが明らかになる、という趣旨のことを言ったの矛盾する。


 なお、筆者の取材に対し、既に述べたようにA氏は、大渕氏のメールは虚偽なのでヘッダを確認するよう盛んに命じるが、実際には、メールが虚偽かどうかを突き止めるのは至難である。それよりもむしろ、新証拠のメール43通は、日時時刻が記載されており、なかには、送信文と返信文の対になったものも多いので、実際のメール数はさらに多い。これだけ時刻が特定されていて、文面にもいつどこで何をやっていたか、何日にどこに行くのか、といった情報量も膨大あるのだから、筆者がA氏の立場ならば、ヘッダを確認せよ、と筆者にいうだけではなく、この時間は私は本当はこういうことをしていた、とか、あの人と会っていた、とか、この日のこの時間は本当は大渕氏に電話はしていない、とか、そういう予定ではなかった、とか、メールにはこの時期の私の状況についてこのように記載があるが、実態はこうだった、その証拠にこういうものがある、といった立証が何かしら出てくるものなのではないか。要するに、43通のうちの多くのメールを、ほかの事実と整合性をもたせて偽造するのは非常に難しく、どこかでボロが出る可能性が高いのではないか。


 これは着手金の振り込みのときも思ったことだが、A氏の言葉からは、具体的に、いつ、どこで、いくらを振り込んだ、だから、大渕氏のいっていることは虚偽た、といった決定的な事実となる証言が出てこないのが、実に不思議である。


 もちろん、A氏が原告の裁判は今後、高裁、最高裁で争われることになるわけであり、今後、裁判所がA氏の言い分を認定する可能性はあるし、A氏の逆転判決の可能性もある。


 そのことを踏まえた上でも、筆者が原告の裁判については、現状、裁判所が、大渕氏の証拠を覆す判断を下すことは考えにくい、と筆者は当事者として思っている。前述のとおり、現在の裁判では、メールは証明力の高い証拠として扱われているためだ。しかも、A氏のほうは、懲戒請求、一審判決ともに負けているので、全体の情勢からみても、こちらの裁判も敗色濃厚といえよう。


 もともとも筆者は、内心、この事件は、新たな証拠が出てきたときが、こちらの非を認めるタイミングだろう、と思っていた。そう思っていたところ、ついにそのタイミングが来たので、筆者は、村瀬弁護士に対し、和解交渉をしてもらうよう、依頼した。渡邉氏も、大渕氏が出した証拠をみて、和解の決断をした。


 なお、繰り返しになるが、A氏は、大渕氏が出したメールの証拠は、偽装と主張しており、その真相をたしかめるのは容易ではない。しかし、メールの真偽が科学的に立証されていない状況とはいえ、筆者は、執筆者として、このA氏と大渕氏を巡る事件の記事を、責任をもって掲載できる状況ではない、と判断している。


 よって、A氏と大渕氏にかかわるくだんの四つの記事を取り下げることに合意した。


 今後、A氏と大渕氏の件については、書くことはない。もともと、筆者は、A氏の家に警察がきた、という点に、巨悪のにおいがして、その点に問題意識を持ち、A氏を取材したわけであり、ある弁護士が、依頼者と金銭トラブルになった、というだけの話には、ジャーナリストとして興味がない。


 なお、今回の取材について、反省点は多い。


 まず、大渕氏がA氏に顧問料31万5千円を返還した際の「和解合意書」は、筆者は取材時にA氏から提供を受けていたこの文面に、大渕氏がA氏に一切かかわりたくない、という心理が出ているように見受けられた。それにもかかわらず、A氏はその後、懲戒請求をしたり、こうして筆者に対し情報提供している。そのことについて、筆者は、これは構図としてクレーマーによるトラブルなるのではないか、と疑問に感じた。


 しかし、A氏の自宅に警察が押しかけてきたことや、大渕氏がA氏に顧問料を支払わせていたこと、結局、大渕氏が提訴すらしていなかったこと、といったA氏の証言や、その裏付けの証拠の文書と比較して、筆者は、この合意書の内容と、それをA氏が守っていないという事実を、重視することができなかった。この合意書の意味することをもっと理解することができれば、あのような記事にはならなかった。


 また、太田弁護士がどのような人物か、取材当時も、調べれば、ある程度、他の事件で物議を醸す言動をしていることはわかったはずだが、筆者はその作業をせずに執筆してしまった。


 また、弁護士の問題点についての取材にもかかわらず、一方の弁護士の非は追及する姿勢にもかかわらず、もう一方の弁護士、つまり太田弁護士については、無条件で、弁護士だから大丈夫だろう、という理由で、根拠なく信用してしまった。これはフェアではなかった。


 また、今から思えば、A氏の話について、複数の弁護士に、このような懲戒請求の事件があるのだが、どう思うか、と聞いていき、弁護士に対する懲戒請求の傾向を調べていけば、記事にするのを見合わせたかもしれない。それというのも、この記事を掲載して以降、筆者は二人の弁護士から、依頼人とのトラブルの話を聞く機会があった。そのうちの一つは、A氏の事件と構図がなんとなく似ていたのである。その話を、執筆前に聞いていれば、記事にしなかったか、全然違った視点の記事になったことだろう。


 このような経緯により、責任を持てない記事を取材執筆して掲載してしまい、ご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。

posted by ssk at 21:55| Comment(0) | 記事
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