「死んだかもしれませんよ」
その言葉を聞いた時、カミさんは、文字通り、こん棒で頭を思い切り殴られたような、衝撃をうけた。
「猫は死ぬときに姿を隠すというし…」などと、おばさんは、続ける。
「そんな……」
カミさんの目から、涙がどっとあふれ、しばらく言葉がつげなかった。
おばさんが、「あの猫はガリガリにやせて、(背中の毛をむしり過ぎて、)はげて…」云々と言っていた時は、カミさんは割と冷静に聞いていた。フジちゃんは、カミさんや妹たちがご飯をあげるようになってから、はげていたところに、うっすらと毛が生えはじめていて、一番ひどい時よりは、若干よくなっていた、おばさんは、そんなフジちゃんの変化を知らないのだ、と思っていた。
しかし、そうは言っても、ひどく弱っていたことには間違いなかった。だから、「死んだかもしれませんよ」という言葉には、かなりインパクトがあったのだ。
そして、カミさんには、気になっていることがあった。
「猫は死ぬ時には、姿を隠す」、それは一般論としては知っている。気になるのは、「最後に見たのは金曜日」と、おばさんが言ったことだ。
前日の土曜日の午前中、カミさんは、大家さんから、猫を飼う許可がおりた、ということは先に述べた。この連絡を受ける数時間前、ふじちゃんにご飯をあげに行ったのだが、この時、ふじちゃんに会えなかったのだ。それまでご飯をあげはじめてから、必ず、カミさんか妹がご飯をあげにいくと、すぐにフジちゃんが近づいてきてご飯をたべていた。それにもかかわらず、この日は午前中ずっと待っていても、ふじちゃんは現れなかった。