そうした中、こういうことがあった。
カミさんの妹さんが、フジちゃんにエサを与えるとき、あまりのやせ衰え、傷ついた姿にいてもたってもいられなくなり、フジちゃんを抱っこして、そのまま実家まで連れてきた。
だが、実家にはすでにオス猫が一匹いて、後述のような事情もあり、そのまま飼うわけにはいかない。かといって、まだ、こちらも新しい物件をじかに見てもおらず、猫の帰る家が見つかっていない。
つまり、まだ家でかくまえる状態ではない。なのでフジちゃんは玄関の中にだけいれる状態になってしまった。そして、カミさんの家族がフジちゃんも見守った。
すると、フジちゃんは、飼うでもなく、居間に招かれるでもなく、というのが、居心地がわるかったのか、きびすをかえしてドアに向かい、帰りたそうにした。
なので元の場所に戻した。
そういうことがあったと、物件も見に行き、あとは正式に契約するのみ、という状況になった。
それから数日後、カミさんの妹が、フジマキの家の通りを挟んで向かいの家のおばさんにあいさつした。
フジちゃんは、フジマキの家の通りを挟んだ向かいの家の庭にもよく居ついており、おばさんは、フジちゃんのことを知っていたためである。
妹は、近々、姉が引っ越してそこでフジちゃんと一緒に住むことになるからね、ということを、おばさんに話した。
そのとき、フジちゃんが、駐車場のほうで、その話を聞いてる様子だった。
その数日後、カミさんが、フジちゃんに会いに行き、エサを与えようとした。
すると、フジちゃんは、カミさんの回りを飛び跳ねんばかりに、喜んでいた。その様子が、いかにも、一緒に住むのよね、という喜びに満ちている風だった。
が、諸事情で、急に引っ越しができなくなってしまったのである。
カミさんはつらそうに泣いた。
筆者も悲しかった。
フジちゃんについては、エサをあげ続け、将来引っ越しをするときに飼う、という話になった。
それから数日後、カミさんがフジちゃんに会いに行った。だが、フジちゃんは、グッタリしていて、食べようとしなかった。
フジちゃんは、日本語を理解している。
ごめんね、フジちゃん、住むのは、もう少し先になることになった、とカミさんが伝えると、ふじちゃんはグッタリしたまま食べなかった。
さらに、カミさんが、将来はいっしょに住めるから、というと、フジちゃんは、もういいわよ、そんな話聞きたくない、という感じで、車の下に入っていった。
さんざん期待させておいて、失望させてしまった。これではあまりにも、かわいそうだ。
ちなみに、生きているとガックリすることもあるものだか、あのときのフジちゃんの失望に比べれば、大したことはない、と筆者は、がっくりするたびに、考えるようになった。
それにしても人間は、いつも身勝手に生きている、度し難い生き物である。無論、筆者も度し難い、人間という動物である。
申し訳ない。
(続く)