平成二十九年四月七月付、のauのニュースサイト
EZニュースフラッシュ増刊号の「朝刊ピックアップ」で記事
「遺族年金「男女差別」合憲判決の“副作用”」
を企画、取材、執筆しました。
3月22日付の朝日新聞朝刊に「遺族年金の性差、合憲 地方公務員、夫受給に年齢制限 最高裁初判断」という記事がある。それによれば、「地方公務員災害補償法の規定で、遺族が妻の場合は遺族補償年金を年齢制限なく受け取れるのに、夫の受給資格については「55歳以上」とされていることが憲法違反かどうかが争われた訴訟の判決で、最高裁第三小法廷(山崎敏充裁判長)は21日、この規定を「合憲」とする初の判断を示した。(中略)
男性は1998年、市立中学校教諭だった妻を労災で亡くし、遺族補償年金を請求したが、男性が当時51歳だったために不支給とされた。第三小法廷は、遺族補償年金制度について、憲法25条が定める「健康で文化的な最低限度の生活」を実現するための社会保障の性格を持つとした上で、「男女の賃金格差や雇用形態の違いなどから妻の置かれた社会的状況を考えると、夫側にのみ年齢制限を設ける規定は合理的」とした。
2013年の大阪地裁判決は、規定は「性差別で違憲」と判断。だが、15年の大阪高裁判決は「配偶者の死亡時に生計を維持できない可能性は、妻の方が高い」として合憲だと判断していた」という。
さらに「先進国で性差『日本くらい』」という小見出しでこうある。「「非常に残念。男女格差解消の流れに水を差す判決だ」。東京都内で会見した原告の男性は、無念さをにじませた。夫の受給する場合にだけ、55歳の年齢制限を設けた規定は、地方公務員の労災だけでなく、国家公務員災害補償法や民間の労働者向けの労災保険法、遺族厚生年金にもある。一方、受給要件などでの男女格差を解消する動きもある。低所得の母子家庭に支給されていた児童扶養手当は、2010年から父子家庭にも支給されるようになった。労災で顔などに傷痕が残った場合、女性の障害等級を男性より高く認定していた基準については、10年に京都地裁が「違憲」と判断して確定。11年2月に男女で統一された。
東京大学社会科学研究所の大沢真理教授(社会政策)によると、遺族補償などで男女に差がある制度は、海外では1990年代に見直しが進み、「先進国で残っているのは日本くらい」という。「遺族の所得を受給要件にすることで社会保障の目的は達成できるはずで、年齢で男女別に条件を設ける必要は元々ない。最高裁判決からは、立法に問題提起する姿勢も見えない」」とあり、「男女で格差がある主な制度」として、ほかに次の事例を挙げている。
<寡婦(寡夫)控除> 死別や離婚で一人親になった時に受けられる所得控除で、父子家庭は所得500万円以下なら控除額27万円。母子家庭は500万円以下なら控除額35万円、500万円超なら27万円」
なお、ほかにも例えば、国民年金には「寡婦年金」、厚生年金には「中高齢寡婦加算」といった、夫を亡くした妻に対してのみ支払われる給付金もある。
これらは、専業主婦が1千万人以上いた時代の名残である。(1980年は専業主婦1,114万世帯、共働き614万世帯。2015年は専業主婦687万世帯、共働き1,114万世。政府統計)
また、共働きが増える中で、「勤続年数10年以上」の女性労働者の割合も、1985年24.9%から、2012年32.2%に増加してきた(厚生省「賃金構造基本統計調査」)。管理職に占める女性の割合も1989年時点では、部長1.3%、課長2%、係長4.6%だったのが、2012年には同4.9、7.9、14.4%と、少しずつすこしずつ増えてきている(同)。無論、まだまだ世界最低レベルではあるが、これから徐々に女性の管理職も増えていくことだろう。
その時代の変化に無頓着なことによる制度疲労により、本来、国民のセーフティーネットであるはずの社会保険の網の目からこぼれ落ちる人がでてくる。例えば前出の男性ような人たちだ。
こういうことがまかり通ると、管理職などの高収入のポストは男こそふさわしい、働く場所は男が中心であり、女は男に席を譲るべき、という風潮になり、女性が能力を存分に発揮する場所を奪う結果になってしまいかねない。(佐々木奎一)