平成二十九年四月十四月付、のauのニュースサイト
EZニュースフラッシュ増刊号の「朝刊ピックアップ」で記事
「氾濫するクックパッドと乳児死亡こじつけ記事」
を企画、取材、執筆しました。
7日付で蜂蜜が原因で乳児が死亡、というニュースを記者クラブメディアが流した。
この事件は、東京都足立区内の生後6か月の男児が1月20日あたりから離乳食として蜂蜜を混ぜて飲ませていたところ、2月20日、けいれんや呼吸不全となり入院し、蜂蜜に含まれていたボツリヌス菌が原因の乳児ボツリヌス症と診断され、3月30日に死亡したという事件。同症による死亡は国内初という。
このニュースの出た翌日8日付でBuzzFeed Japanというニュースサイトが「離乳食で蜂蜜で男児死亡『クックパッド』のレシピ巡り物議」という記事を載せ、多くの人に読まれていた。
無論、この見出しをみると、乳児の死亡とクックパッドのレシピが関係しているかのように見える。
だが、記事本文を一瞥したところ、クックパッドと関係があるとは一言も書いていない。要するに、この記事は、クックパッドという巨大サイトの顧客吸引力と乳児死亡というセンセーショナルな言葉を結びつけることで、あたかも魚釣りで擬似エサに食いついて釣られる魚のように読者を釣ろうとする、卑しい記事である。
ではなんと書いてあったかというと、この擬似エサ記事には、こんな風に書いてある。
「この報道をうけ、料理レシピサイト「クックパッド」に非難の声が上がった。
「離乳食 蜂蜜」とGoogleで検索をすると、クックパッドが上位にあがる。サイト内で「離乳食蜂蜜」のキーワードで検索すると、ヒットするレシピは147件(2017年4月8日時点)。
これらは一般ユーザーがレシピを投稿したものだ。
不正確な医療記事を掲載して炎上したDeNAの「WELQ」(現在は閉鎖)に絡め、「同程度に問題なのでは?」と指摘する声や「殺人サイト『クックパッド』」など過激なものも見られる」
ここでいう「声」なるものは、どこの誰なのかも明かさない低劣な連中のひしめき合う、ネット内での無責任なコメントである。そもそもクックパッドが原因という情報は絶無なのに、クックパッドを槍玉にあげる点が、うさんくさい。クックパッドの同業他社の従業員かもしれない。
このような、いかがわしい声、なるものを、この擬似エサ記事は拡散している。しかもこの記事にはクックパッドについてこんな記載もある。
「では、そのレシピ内容はどうなのか。「蜂蜜離乳食」で検索した際の人気ランキング1位の「離乳食完了期〜きな粉はちみつ湯」を見る。
そこには「蜂蜜は一歳未満のお子さんには控えてください」と注意書きがある。
3位の「バナナきな粉蒸しパン」には材料にはちみつが推奨されているが、「はちみつは1歳過ぎてから使ってます」とだけある。(中略)
同社が展開する妊娠や出産、育児などの情報サイト「クックパッドベビー」。離乳食の食べていいものダメなものには、はちみつは1歳未満は「×」になっており、1歳〜1歳6カ月は「△」になっている。
「ボツリヌス菌の心配があるので」と明記され、決して、クックパッド自体が蜂蜜の危険性に触れていないわけではない」
このようにクックパッドに非がない点を書いておきながら、他方でクックパッドで乳児が死亡したように書くのだから、悪質である。
それに、そもそもの話、大抵の蜂蜜の製品の裏側の注意書きには、一歳未満にはたべさせないように、と書いてある。それだから、離乳食で蜂蜜入りのレシピといえば、1歳〜1歳6か月が対象とのは、育児中の者にとっては言うまでもない話である。
それを食品の注意書きのラベルをみることすらしない怠慢な人目線で世の中を合わせようなどというのは、衆愚である。それに、検索して上位にでてくるからクックパッドを槍玉にあげて吊るし上げる、という発想自体、低劣で卑しい。
それに、そもそもクックパッドというのは、素人がレシピを投稿するサイトで、料理研究家や料理人などのプロに比べ、レシピの数が膨大で、口コミの評価が可視化されていて、プレミアム会員でも月額280円と料金が安く、無料会員でもある程度はサイトをみれるのが売りだ。
もちろん、素人のサイトゆえに、レシピがおいしくても、栄養にどこまで気を使っているかは疑問、というデメリットもあるが、これはメリットと表裏である。もしも、いちいちのレシピを栄養士がチェックしたら、料金もあがるだろうし、ダメ出しされるかも、と萎縮して素人が気軽に投稿できなくなり、クックパッドの持ち味である活気もなくなってしまうことだろう。
こういうサイトの特性にもかかわらず、検索で上位になったから、などという、クックパッドになんら非のない点を理由にして、乳児死亡に無理矢理こじつけて批判する、というのは週刊誌の低劣な手口そのものであり愚劣である。
無論、記者クラブメディアも例によって、「蜂蜜危険な乳児ボツリヌス症ネットには離乳食レシピも」(11日付毎日新聞電子版)などという追従記事を載せたりしている。
批判しているジャーナリズムもどきのほうが、批判されているほうよりもよっぽど低劣で批判に値する、という哀しい構図になっている。無論、本物のジャーナリズムは、これらとは一線を画すが、果たして今の日本に本物のジャーナリズムは、ありやなしや。(佐々木奎一)