2016年11月30日

海と、天地の生き物を汚染するマイクロ・プラスチック 八


 話が横道にそれるが、この連載は諸事情で当初の予定より時間がかる見込みとなってしまった。そのため、以前に他媒体で執筆した原稿を、ここに載せることにした。それは昨年夏の712日付でニュースサイトEZニュースフラッシュ増刊号「ウワサの現場」で執筆した「海を汚染する「マイクロ・プラスチック」の実態」という、筆者の企画取材執筆の元原稿。昨年書いたものだが、無論、問題の本質は全く変わっていない。


生命の源である「海」に微細なプラスチックが蔓延している事をご存じだろうか?

 米国アルガリータ海洋調査財団のチャールズ・モアは19978月、ハワイとカリフォルニアの中ほどの太平洋の真ん中の海面に、奇妙なかけらや切れ端が、蛾の死骸のようにひらひらと浮いているのを発見した。モアがそのことを世に問うたところ、米メディアは、この海域を「太平洋ごみベルト」と呼び、世の中に知られるようになった。

 モアは海に漂うプラスチックのことを本に著した。そこには「太平洋ごみベルト」について、こう書いてある。

 「その呼び名は、実際とは違った印象を与える。それはプラスチックでできた薄いスープである。プラスチックの破片で調味し、ブイ、もつれた魚網、浮き(中略)、その他もろもろの大きめの残骸といった『ゆで団子』があちこちに浮いているスープである」(「プラスチックスープの海―北太平洋巨大ごみベルトは警告する」(著:チャールズ・モア、カッサンドラ・フィリップス・訳:海輪由香子/NHK出版刊))

 この大洋に浮かぶスープの具であるプラスチックの破片は、「マイクロ・プラスチック」という。

 当コーナーでは、これまで12624日付「食用魚も海外にも…日本人が知らない海洋ゴミの現実」、今年531日には、洗顔剤や歯磨き粉のスクラブ剤に入った「マイクロ・プラスチック・ビーズ」を取り上げた。

 前者の海洋ゴミは、大きなプラスチックゴミが海岸に大量に打ち上げられている問題で、これはマクロ・プラスチックという。マクロ・プラスチックは紫外線や熱、波の力などにより細かな破片になっていく。これが「マイクロ・プラスチック」である。

 後者のスクラブに入ったマイクロ・プラスチック・ビーズは、マイクロ・プラスチックという大きな括りのなかの一部分である。

 なお、同書には、海洋のプラスチックの有害性を研究している第一人者である日本の専門家が紹介されている。その名は東京農工大学の高田秀重教授(56歳)。

 東京都府中市内にある同大キャンパスでの高田教授への取材に基づき、「マイクロ・プラスック」の実態をお伝えする。

 高田氏は、80年代初めから環境の研究を始め、プラスチックに関連する物質の研究も80年代から始めた。そして、海にあるプラスチックそのものに的を絞った研究をはじめたのは9798年頃からだった。

 「別の研究機関にいる私の大学の先輩が、『これから問題になるかもしれないから分析してみない?』と言い、海岸にあるプラスチック・レジンペレット(プラスチック製品の中間材料)を渡しました。それを分析してみると、たしかに高い濃度の色々な汚染物質が検出されました。しかも、もともとのプラスチックの添加剤に入っていない汚染物質も出てくることもわかりました。

 これは『汚染物質の運び屋』になるんじゃないか、ということで98年から問題にし始め、01年に発表しました。同時期、『プラスチック・スープ』を書いたチャールズ・モアたちが、太平洋にプラスチックがたまる場所もがある、と報告をしました。そのころから段々、国際的にも関心的が高くなっていきました。

03年には、目に見えない1mm以下の顕微鏡サイズになったマイクロ・プラスチックが、海の生物に入っていく、あるいは砂のなかにある、ということが報告されました。10年以降は、さらに関心が高く鳴り、色々な国際会議や国際機関での検討会が開かれ、今年はG7の議題になり、国連の海洋汚染の専門家会議で国際的な評価が行われるようになってきています」(高田秀重氏)

 また、高田氏は環境団体「インターナショナルペレットウォッチ」を立ち上げ、世界各地の海岸漂着プラスチックをエアメールで送ってもらうことを呼びかけ、海洋汚染調査もしている。

 高田氏によると、現在、世界では年間3億トンのプラスチックが生産されているという。そのうちの半分は、食品のパッケージやコンビニの弁当箱、レジ袋、ペットボトルなどの容器包装である。このうち1年間に800万トンのプラスチックが海洋に流入している。その経路は、ゴミのポイ捨てや、ゴミ箱から溢れて外に出たゴミなどが、雨に流される。

 「4大プラスチックのうちの2つ『ポリエチレン」『ポリプロピレン』は、全体の生産の半分を占めているのですが、それらは水よりも軽いんですよ。なので、雨が降ると、雨に流されて水路に入り、それから川に入り、海に流れていきます」(高田氏)

 こうして膨大な量のプラスチックが海洋を漂っている。

 「プラスチックは、プラスチックそのものでは、なかなか性質を維持できないので、燃えにくくする等のために、大抵のプラスチックは添加剤を加えています。その添加剤のなかには有害なものもあります。それから、プラスチックは、海のなかにある有害な化学物質をくっつけます」(高田氏)

 たとえばプラスチック容器にはノニフェノールという環境ホルモンが出ることもある。これは子宮内膜症、乳がんの増加、精子数の減少、生殖器の萎縮といった弊害が指摘されている。

 また、マイクロ・プラスチックは、「ポリ塩化ビフェニル」という、奇形、ガン、免疫力の低下、脳神経系に影響する物質も付着する。

 こういった様々な汚染物質がマイクロ・プラスチックに付着するため、その汚染濃度は、周辺海水中の10万倍から100万倍に達する。

 すでにマイクロ・プラスチックは、海に生息する二枚貝の体内からも検出されている。魚介類の体内にあるということは、生態系の上位にいくほど濃縮した汚染物質を摂り込み、巡り巡って人間の体内も汚染する事態になることが予想される。

 「海洋のマイクロ・プラスチックの量は、今後20年で10倍になります。海洋汚染を軽減していくためには、プラスチックの使用を減らしていく必要があります」と高田氏は警鐘する。

 海がこれほどまでに汚染されてしまう事態。これは人類にとっても、ただでは済まないのではないか――。手遅れにならないうちに、手を打つ必要がある。(佐々木奎一)

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2016年11月28日

第二次世界大戦後初…「駆けつけ警護」


 平成二十八年十一月二十一月付、のauのニュースサイト


   EZニュースフラッシュ増刊号の「朝刊ピックアップ」で記事 


 「第二次世界大戦後初…「駆けつけ警護」」


 を企画、取材、執筆しました。



20147月の安倍自公政権による「解釈改憲による集団的自衛権容認の閣議決定」に基づく安全保障関連法制を根拠に、ついに「駆けつけ警護」が行われることとなった。「駆けつけ警護」とは、「国連平和維持活動(PKO)で、陸上自衛隊の部隊が、現地の国連司令部の要請を受けて現場に急行し、武器を使って守れるようにすること」を指す。

 自衛隊が、自衛の範囲を超えて武器を使う事態は、第二次世界大戦が終わって以来、初。(1115日付ジャパンタイムズ)

 自衛隊の海外での武器使用を巡っては、1992年成立の国際平和協力法(PKO協力法)では、自衛官自身や近くの仲間を守るための必要最小限の使用のみを「自己保存のための自然権的権利」(自己保存型)として認めた。が、これまでは「駆けつけ警護」については、危険にさらされていない隊員があえて離れた危険な場所に飛び込むため、従来の政府は、「自己保存型の範囲を超える」として駆けつけ警護は認めてこなかった。

 しかし、安倍自公政権は、集団的自衛権容認の解釈改憲の閣議決定をして、安保法制を強行採決。この安保法制の計11本の法律のなかの「改正PKO法」により、「駆けつけ警護」を認め、他国のPKO要員らとともに武装勢力から宿営地を守る「共同防護」も認めた。

 この「駆けつけ警護」をする陸上自衛隊派遣部隊や施設部隊、後方支援部隊などの先発隊130人は今日20日、青森空港から出発する。行き先は、南スーダンの首都ジュバである。

 稲田朋美防衛相は国会で、「ジュバ市内が落ち着いている」「7月には戦闘行為ではなく衝突事案があった」と述べていた。が、首都ジュバでは、反政府軍と政府軍の激烈な軍事衝突により、7月以来、300人もの人間が死んでいる(同ジャパンタイムズ)。

 政府軍のドミック副報道官によると、7月の激烈な戦闘の際は、自衛隊の宿営地の隣にあるビルでも、激しい銃撃戦が2日間にわたって行われた。壁には無数の銃弾の跡が残り、隣の自衛隊宿営地に流れ弾が飛んだ恐れもあるという。国連のディエン事務総長特別顧問は11日、南スーダンの現状について「民族間の暴力が激化し、ジェノサイド(集団殺害)になる危険性がある」と警告している。(16日付朝日新聞)

 要するに、日本の自衛隊は、敗戦以来、初めて、他国の激烈な銃撃戦の行われている戦闘地域へ出かけ、応戦することになる可能性がある。そうすれば、自衛隊員が死ぬかねしれないし、自衛隊がたくさん人を殺すかもしれない。日本の国土を護るべき自衛隊が、他国で武器を使って殺し合う。平和憲法のもと、解釈改憲の閣議決定という前代未聞の暴挙により、それを可能にしたのが、今の安倍自公政権である。

 国会前では駆けつけ警護に反対するデモが行われている。例えば、15日の午前8時前からは市民団体約350人が集まり、「閣議決定反対」「駆けつけ警護反対」などと声を上げ、清水雅彦・日本体育大学教授(憲法学)はマイクで「南スーダンは明らかに内戦状態で、新任務は憲法違反」と批判し、仕事を休んで参加したという神奈川県藤沢市の会社員の女性は「現地では激しい戦闘も起きている。そんな場所に派遣される自衛隊員が心配です」と話したという。(朝日新聞)

 たしかに自衛隊員の身の上は心配である。だが、自衛隊員だけではない。今後、集団的自衛権の行使容認により、安倍自公政権がアメリカの戦争に参加する事態になるかもしれない。そうすると、日本は敵視され、日本国内でテロのリスクが一層増すのは自明の理だ。が、テロだけではない。

 首都圏などの都市部にミサイルが落とされるかもしれない。

 他国へ行った自衛隊員が心配、徴兵制になるかもしれない、といった声はよくあるが、それだけではなく、自公政権により平和憲法が捻じ曲げられると、戦争とは関係のないところにいるつもりの日本人にも、身の危険が迫ることになる。(佐々木奎一)

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2016年11月24日

京都市“猫エサやり禁止条例”ができるまで  エサやり禁止プロジェクトチーム 五十一

 このように前置きしたうえで、中村氏は、こう回答した。

 「さて、質問@の見解ですが、

 ・京都市の考え方が記載されている資料1を参照してください。言わんとされていることは、十分に理解できますが、単純に『のら猫エサやり禁止条例』と呼称するのは、偏った見方と考えております」

 さらに、中村氏は、こう回答した。

 「質問Aの見解

 ・まず初めに、『ある議員』は断じて私ではないことを明言致します」


 (続く)

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“トランプ現象”と世界の未来

 平成二十八年十一月十八月付、のauのニュースサイト


   EZニュースフラッシュ増刊号の「朝刊ピックアップ」で記事 


 「“トランプ現象”と世界の未来」


 を企画、取材、執筆しました。



 トランプがアメリカ次期大統領になることが決まったことで様々な推察がされている。例えば、13日付の日本経済新聞朝刊の記事「トランプ現象、連鎖止めよ――20世紀、独裁者の歴史が警鐘」には、「反グローバル化の感情や経済的不安をあおる。共通の敵をつくり人気を得るポピュリズム(大衆迎合)の手法は、かつてのファシストや独裁者を思わせる(中略)心配なのは、この乱暴な手法が他国に伝染しかねない点だ。(中略)フランスの極右政党、国民戦線(FN)のルペン党首はトランプ勝利が伝わると、すぐに歓迎する声明を出した。仏次期大統領の有力候補との見方もあるだけに、追い風になると見ているようだ。

 ドイツでも反難民を掲げる民族主義政党が急伸し、メルケル政権への批判を強めている。中欧オーストリアでは難民対策を巡って国論が二分し、来月の大統領選挙で極右政党の候補が当選する可能性も出てきている。

 東欧のポーランドやハンガリーでは『強い国家』の復活を掲げた指導者が排外的なナショナリズムに訴え、強権的な政権が誕生している。排外主義、保護主義が広がれば、英国の離脱決定で揺らいだ欧州連合(EU)の結束にも、さらに悪影響が及ぶ」とある。

 そして、「防波堤になるのは、やはり歴史からの警告だろう」として、「大恐慌後の30年代、危機を脱しようと、保護主義がはびこり、閉鎖的な経済圏が分立した。共産主義陣営とファシズム陣営が激しく対立し、ついに戦争が始まる。歴史の教訓に学ばず、トランプ現象の連鎖を止められないようでは、世界はいよいよ激動の20世紀前半に似てくる」という。

 そうした20世紀前半の状況に似てきたのは確かといえよう。ただし、この記事では、あたかも他国だけで“トランプ現象”がおきているかのような書きぶりであるが、日本も例外ではない。その肝心要に触れていない点が、あんこの入っていないタイ焼きのような記事であり、いかにも政府に配慮した御用記者クラブメディアらしい。

 要するに、安倍自公政権もご多分にもれず、敗戦前回帰を鮮明にしており、日本は歴史の教訓に学ばなければ危ういのは確かである。

 なお、この状況をもっと巨視的に分析する識者もいる。11日付の朝日新聞朝刊に、「近代世界システム論」を唱え、現代世界の構造的問題を百年単位の時間軸で分析したというアメリカの社会学者イマニュエル・ウォーラーステインのインタビュー記事がある。氏はこう語っている。以下、抜粋。

 ――なぜトランプ氏が登場したのでしょうか。

 「背景には多くの人が職業を失い、経済的に苦しんでいるという事情があります。でも、米国はもはや世界の製造業の中心地ではなく、何もない中から雇用は作り出せないし、(苦しむ人を支えるために)社会保障を拡充するには税収を上げる必要がある。今は高揚感が広がっていますが、トランプ氏の支持者も1年後には、『雇用の約束はどうなったのか』と思うのではないのでしょうか」

 ――米国の民主主義に危機が訪れているのでしょうか。

 「米国では現在、四つの大きな政治集団があります。共和党主流派が属する中道右派と、ヒラリー・クリントン氏に代表される中道左派の双方は、今回の選挙で弱体化した。あとは、より極端に右に行った排外的な集団と、バーニー・サンダース氏に代表される左派のポピュリストの集団があります」

 「右にしても左にしても、先鋭的な集団は内側からの批判を恐れ、どんどん極端になっていく危険性があります。また、現段階で世論調査をすれば、四つの集団はそれぞれ25%程度の支持を得るかもしれません。それだけに、予測がつきにくく、コントロールも難しい状況と言えるでしょう」

 ――欧州でもブレグジット(英国のEU離脱)のようなポピュリズムのうねりが起きています。先進国共通の問題でしょうか。

 「世界経済が芳しくなく、多くの人々が苦しんでいるのは間違いありません。苦しい状況を生み出した『仮想敵』を攻撃することで、『国を再び良くする』と約束する政治集団は各国にたくさん存在し、今後も増えるでしょう。ただ、それぞれの国で、必ずしも多数派の人が賛同しているわけではないのも事実です」

 そして、こうある。

 ――教授の言うように「近代世界システム」は衰退していくのでしょうか。

 「現在の近代世界システムは構造的な危機にあります。はっきりしていることは、現行のシステムを今後も長期にわたって続けることはできず、全く新しいシステムに向かう分岐点に私たちはいる、ということです」

 ――その移行期における日本の立ち位置はどうなりますか。

 「新しい世界システムが生まれるまでは、古いシステムが機能し続けます。資本主義システムのルールの下で覇権を奪い合う競争を続けることになる。その参加者としては、米国のほか、ドイツを中心とした西欧グループと、極東アジアのグループが理論的にはあり得ます」

 「中国、韓国、日本の3カ国は言葉はそれぞれ違いますが、バラバラにする力よりも統合する力の方が強いように思える。確かに日本の現政権は、中国や韓国との関係を深めることに熱心には見えません。過去についての謝罪が必要な一方で、自尊心がそれを困難にしているのでしょうが、地政学的に考えると、一つにまとまる方向に動くと私は考えています」

 同氏はさらにこう語る。

 ――現在のシステムの後に来るのは、どんな世界でしょう。

 「新しいシステムがどんなものになるか、私たちは知るすべを持ちません。国家と国家間関係からなる現在のような姿になるかどうかすら、分からない。現在の近代世界システムが生まれる以前には、そんなものは存在していなかったのですから」

 「その当時もやはり、15世紀半ばから17世紀半ばまで、約200年間にわたるシステムの構造的危機の時代がありました。結局、資本主義経済からなる現在の世界システムが作り出されましたが、当時の人がテーブルを囲んで話し合ったとして、1900年代の世界を予測することができたでしょうか。それと同じで、西暦2150年の世界を現在、予想することはできません。搾取がはびこる階層社会的な負の資本主義にもなり得るし、過去に存在しなかったような平等で民主主義的な世界システムができる可能性もある」

 ――楽観的になって、良い方の未来が来ると思いたいですが。

 「ですから、それは本質的に予測不可能なのです。無数の人々の無数の活動を計算して将来を見通す方法は存在しません」

 「一方で、バタフライ効果という言葉があります。世界のどこかでチョウが羽ばたくと、地球の反対側で気候に影響を与えるという理論です。それと同じで、どんなに小さな行動も未来に影響を与えることができます。私たちはみんな、小さなチョウなのだと考えましょう。つまり、誰もが未来を変える力を持つのです。良い未来になるか、悪い未来になるかは五分五分だと思います」

 と、氏の言うように、今、私たちは分岐点に立っているといえよう。無論、未来がどうなるかは定かではない。だが、トランプが勝った背景には、アメリカ社会の民主主義の行き詰まりがある。そして、日本の民主主義も、行き詰まっている。

 例えば、舛添要一前都知事が、週末に別荘の温泉に通っている、とか、政治資金でタマゴサンドを買った、などという類のことで、政治家、新聞、テレビ、雑誌、ラジオ、ニュースサイト、そして国民が、違法行為をしたわけでもない舛添氏を、まるで大犯罪人でもあるかのように情緒的に袋叩きにして辞職に追いやったのは、記憶に新しい。この現象は、日本の民主主義が行き詰まり、衆愚主義に陥っている象徴といえよう。

 では、どうすればよいか。民主主義は、崇高な理念を持つ。だが、理想と現実は、違う。たとえば、誰しも平等に権利を持つ、という理念により、教育をちゃんと受けていない者・受けてもすっかり忘れ去っている人と、教育をしっかり受けて歴史の教訓に学べる人が、現状では平等に一票を投じる権利を持っている。そして、現状は、前者が後者より圧倒的に多い。だから、衆愚政治に陥る。

 それゆえに、投票権は、感情に支配されず理性的な判断する能力や、憲法等の法律の素養、歴史的教訓を学ぶなどの歴史の素養、政治、社会学の素養、搾取をしないといった倫理的素養といった教育の習得度に応じて、ある人は1,000票の権利を持ち、ある人は1票の権利を持つ、といった具合に差をつけていく必要があるのではないか。民主主義の理念を社会に実現するためには、制度のなかで理想が現実に追いついていない部分は、現実的に修正する。そうした「民主主義のブラッシュアップ」(磨き上げてさらによくすること)が必要なのではないか。(佐々木奎一)


PS かつて尾崎咢堂が、普通選挙法が導入されるとき、「日本ではまだ早い」と言っていた。その時、先送りした課題は、いまなお我々日本人の前に立ちはだかっているように観える。

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2016年11月22日

ニュージーランド巨大地震と日本

 平成二十八年十一月十四月付、のauのニュースサイト


   EZニュースフラッシュ増刊号の「朝刊ピックアップ」で記事 


 「ニュージーランド巨大地震と日本」


 を企画、取材、執筆しました。



 日本時間の昨日午後8時過ぎ(現地時間14日午前0時頃)、ニュージーランド南島クライストチャーチの北東約90キロでマグニチュード(M78の強い地震があった。現地では2人の死亡(1人は自宅に閉じ込められ、もう1人は心臓発作)が確認されており、南島の北東部カイコウラで2メートル超の津波が観測されたとの情報もある。停電のほか、土砂崩れ、地割れなどのため通行止めの地域もあるという。(朝日新聞電子版)

 また、アメリカ地質調査所によると、現地では最初のM78の地震の後、M61の地震を観測。その後も余震は続き、そのうちM5以上の余震を3度観測している。今回の震源地近くのクライストチャーチでは2011222日、M63の地震を観測し、185人が死亡、164人が重傷を負った。今回の地震は、その時の4050倍に達するという。(ニューヨークタイムズ電子版)

 なお、59か月前に起きたこのクライストチャーチの地震は、日本人にとって格別な悲劇だった。28人もの日本人留学生が犠牲になったのだ。

 しかも、その4週間後の2011311日、東日本大震災が起きた。

 当時、このクライストチャーチの地震と、東日本大震災は、連動している、と指摘する識者もいた。要するに、ニュージーランドの巨大地震は、日本にとって、不吉である。

 あの311日の巨大地震のあと、原発の安全神話は消え失せ、この国は、原発によらないエネルギー政策へのチェンジを迫られた。しかし、安倍自公政権は、あたかも時計の針を戻して東日本大震災の記憶を喪失したかのように、国民の反対の声を無視して、原発再稼働を進めている。いつまた巨大地震が日本を襲い、福島第一原発の惨劇を繰り返してもおかしくないというのに。

 その姿は、日本を焦土にした軍部に似ている。なかでも現役軍人のまま陸相、内相を兼ねて首相になった独裁的権力者・東条英機の率いる内閣と、安倍自公政権は、似ている。(佐々木奎一)

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2016年11月18日

京都市“猫エサやり禁止条例”ができるまで  エサやり禁止プロジェクトチーム 五十一

 そして、中村三之助氏は、こう述べた。

 「一昨年、ドイツ・フランス・イギリスの先進事例を視察調査に行ったのもその為ですし、次は、『京都動物愛護センター』のソフト面の充実の為の情報収集に、アメリカの先進事例を調査しに行きたいと考えているところです。

 開所した『京都動物愛護センター』も建物は新しいですが、その果たすべき役割がまだまだできていません。そのソフト面をしっかりと入手して帰り、提言提案をしていきたいと思っています」

 そして、こうつづっている。

 「私は、京都はいち早く『殺処分ゼロ』を達成しなければならないと思い、私は私の立場で取り組んでおりますことをまずは、ご理解ください。」

 (続く)

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「自公壊憲草案」


 池田大作教・政治支部ことコーメートーと信者連は、さも自分たちは自民党改憲草案とはちがうかのように、詭弁を弄している。
 だが、さきのアメリカ大統領選に鮮明な通り、国民の意志を決するのは選挙である。
 その選挙で、池田大作党の信者連は、「イケダセンセーのため」とか、「功徳のため」とか、「コーセンルフのため」などという、不気味な「お題目」を唱え、壊憲を掲げる自民党候補に一斉に投票し、周りにも自民党に投票するようしつこく勧め、全国の小選挙区で自民党を勝たせる決定的な役割をはたしている。そのイケダ原理主義的「政治活動」は、教団にとってはれっきとした「宗教活動」なのだそうだ。信者たちは、そこなんの疑問を抱かず、どうすれば自公を勝たせることができるか、どうすれば数字が取れるかに明け暮れている。
 それでいて、「自民党の壊憲草案はおかしい。ジブン達は、自民党とは一緒ではない」などと言う池田教の言い分は、言ってることとやってることが逆の、二枚舌の詐欺師の類だ。あるいは信者たちのなかには、悪意がなく、教団の詐欺的詭弁にだまされている者もいる。そういう信者は詐欺師ではなく、愚劣である。本当の「巨悪」というは、そういう愚劣さのなかにある。
 そういうわけで自民党と池田コーメートーは、完全に一体化していて、池田教は自民党の補完勢力として存在している。
 だから、「自公壊憲草案」が正しい名称である。
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2016年11月17日

日本に直結する“トランプ大統領”リスク

 平成二十八年十一月十一月付、のauのニュースサイト


   EZニュースフラッシュ増刊号の「朝刊ピックアップ」で記事 


 「日本に直結する“トランプ大統領”リスク」


 を企画、取材、執筆しました。



9日に行われたアメリカ大統領選は、暴言を尽くして支持を広げた不動産王ことドナルド・トランプ(70)が、民主党のヒラリー・クリントン前国務長官(69)を破り、第45代アメリカ大統領として来年120日に就任することとなった。トランプは、昨夏の時点では暴言をまき散らす泡沫候補の変人に位置付けられることが多かったが、じわりじわりと支持を広げていった。それでも、9日の一般投票ではクリントン優勢という見方が大勢だった。

 だが、いざフタを開けてみると、トランプが続々と各州を制圧していった。例えば、ニューヨークタイムズ電子版の開票速報によると、最重要といわれていたフロリダ州では、トランプ4,605,515票(得票率49.1%)、クリントン4,485,745票(同47.8%)と、ほんの1.3%差でトランプが勝った。また、ペンシルベニア州では、トランプ2,912,941票(48.8%)、クリントン2,844,70547.6%)と、わずか1.2%差。ミシガン州では、トランプ2,279,210票(47.6%)、クリントン2,267,373票(47.3%)と、0.3%差。ウィスコンシン州では、トランプ1,409,467票(47.9%)、クリントン1,382,210票(46.9%)と1.0%差など、激戦区の大半をトランプがものにした。上記各州を合わせた獲得選挙人数は75人。

 いうまでも大統領選は、選挙人538人のうち過半数の270人以上を獲得した候補が当選することになっているが、CNNによると結果はトランプ290人に対し、クリントン232人(日本時間10日午前11時時点での集計値)なので、上記激戦区の計75人がいかに枢要かがわかる。

 しかも、10日付の同社の集計(開票率92%時点)によれば、クリントンの得票数59755284票に対し、トランプ59535522票と、21万超の僅差で、クリントンが上回っているという。

 だが、たとえ総得票数で負けたしても、ルール上、トランプが大統領になることが決まった。この大統領選が、世界の命運を分けるかもしれない。

 トランプ大統領になったら世界はどうなるのか――。巷では、トランプは選挙に勝つために、わざと暴言を吐いただけで本当は紳士だから心配ない、とか、トランプには政権運営能力はない、とか、これで世界の終わりだ、といった、様々な推察がされている。

 例えば、ニューヨークタイムズ電子版の9日付のジャーナリスト・ニコラス・クリストフのコラムによると、トランプは未熟で過激な発言をするが、イデオロギーに凝り固まってはいない。たとえば、トランプはかつては妊娠中絶合法化を支持していたが、共和党候補指名争いをしているなかで、中絶した女性は罰するべきだ、と発言した。このように正反対のことをいうのは、核となる考えがないからである。要するに、トランプはオポチュニストである。(オポチュニストは「ご都合主義者、日和見主義者」ともいう。意味は「形勢をうかがって、自分の都合のよい方につこうと二股ふたまたをかけること。政治運動や労働運動で用いられることが多い」(広辞苑第六版))

 そのためトランプは、メキシコ国境沿いに壁を建設して、イラスム教徒を締め出す、と騒いだが、実行しないことだろう。そのアイデアは現実的ではないからだ。

 そして、こう書いてある。

 「トランプの最も危険な領域は、内政ではなく、外政である。外政ではトランプは法律に拘束されずに、自由に行動できるからだ」

 つまり、このコラムによると、トランプは暴言を吐き散し、オバマ大統領のやってきた政策をことごとくひっくり返えす、と言っていたが、実際はアメリカ国内では、無難にやりそうだ。だが、外政では、選挙中にみせた攻撃的な本性のまま振る舞う可能性が多分にある、ということになる。無論、日本にとって他人事ではない。

 例えば、これまでにトランプは、ISに対して地上戦を展開して核兵器も導入して殲滅する、という意味の発言したり、割に合わないので米軍は日本から撤退する、日本は核兵器を持って自前で北朝鮮に対抗するべき、といった趣旨の発言もしている。

 もしも本当にトランプがISに地上戦を仕掛けた場合、日本に対して、集団的自衛権に基づく派兵を要請するかもしれない。つまり、事実上の日本の戦争参加である。そうなると日本国内でのテロはますます現実味を増すし、自衛隊員もたくさん死ぬかもしれない。また、もし本当にトランプの言うように米軍が日本から撤退すれば、安倍自公政権は、それを奇貨として、本当に核武装を実行に移すことだろう。アメリカがあいだに入らなければ、安倍自公政権は、中国や北朝鮮といった周辺国と戦争を始めるかもしれない。

9日の大統領選により、日本の命運はトランプに左右される、という異様な状況になった。(佐々木奎一)

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2016年11月14日

押しつけ憲法論と敗戦前の憲法下の民法の内実

 平成二十八年十一月七月付、のauのニュースサイト


   EZニュースフラッシュ増刊号の「朝刊ピックアップ」で記事 


 「押しつけ憲法論と敗戦前の憲法下の民法の内実」


 を企画、取材、執筆しました。



 「憲法を考える 押しつけって何?」という朝日新聞の連載記事が4日から載っている。そこにこういう一節がある。

 「近年、押しつけ論が再び浮上している。自民党憲法改正草案しかり、自民党が作った改憲PR漫画しかり。『敗戦した日本にGHQが与えた憲法のままでは/いつまで経っても日本は敗戦国なんじゃ』。漫画の登場人物のセリフだ」

 このように押しつけ憲法論をふりかざす安倍自公のうしろには日本会議がある。安倍自公政権の面々の多くも、日本会議のメンバーだ。

99日付当コーナーで紹介したように、その日本会議について、かつて慶応大名誉教授の小林節氏は、「私は日本会議にはたくさん知人がいる。彼らに共通する思いは、第二次大戦での敗戦を受け入れがたい、だからその前の日本に戻したいということ。(中略)よく見ると、明治憲法下でエスタブリッシュメント(筆者注:支配者層)だった人の子孫が多い。そう考えるとメイク・センス(理解できる)でしょ」と言った。(2015615日、日本外国特派員協会の会見にて。同年712日付週刊現代の魚住昭氏の記事より孫引き)

 「敗戦前の日本に戻したい」。そのために憲法改正して、それに基づき法律を変え、敗戦前のこの国の形に取り戻したい。それが、日本会議=安倍自公政権の本音である。

 では、敗戦前の日本は、どういう法律だったのか。1017日付当コーナーでは、「敗戦前の労働基準法」に基づく劣悪な労働環境について触れた。

 ほかにも、例えば、「私法の王様」ともいわれる民法は、日本国憲法ができる前と、できてから、では、まったく違う。敗戦前の民法(以下「旧民法」)は「男尊女卑」に貫かれていた。

 そのことは現明治学院大の加賀山茂教授のHP「日本の家族と民法」に詳しい。そそれによると、旧民法の特色の一つは「家制度」。それは「家は、戸主(家長)とその家族によって構成される(旧732条)」「家族は家長である戸主の命令・監督に服する。その反面、戸主は、家族を扶養する義務を負う(旧747条)」というもの。要するに、戸主は、家のなかで絶対的権力者だった。

 そして、結婚した女性は、権利を奪われた存在だった。旧民法では、「婚姻によって妻は夫の家に入る(旧788条)。その結果、妻は氏を夫の家の氏に変更し、戸主と夫の支配と庇護の下に入る」

 そして、「女は、婚姻によって無能力者となる。たとえ、女が婚姻前は成年として能力者であっても、妻となると、無能力者となってしまい、重要な法律行為をするには、常に夫の同意を得なければならない(旧788条)」。(「無能力者」とは民法上、「未成年者、成年被後見人、被保佐人及び被補助人(特定の法律行為をするには補助人の同意を要する旨の審判を受けた者に限る)がこれに当たる。平成11年及び16年の改正により、「無能力者」という用語は「制限行為能力者」という用語に改められた」(法律用語辞典第4版より)

 さらに、「法律上、貞操義務を負うのは、妻だけであった。離婚原因も、『妻が姦通をなしたるとき』であり、夫が姦通してもそれだけでは離婚原因とはならなかった(旧8132号)。夫の姦通が離婚原因となるのは、強姦をするなど、『夫が姦淫罪に因りて刑に処せられたるとき』のみである(旧8133号)。また、貞操義務が刑法によって義務づけられていたのも妻だけである。すなわち、姦通罪で罰せられるのは、妻の側だけであった(旧刑法353条)」

 このように「戸主は、戸主権を通じて家族を支配していた(旧749条〜751条)。また、夫は、夫権を通じて妻を支配し、さらに、親権を通じて子を支配する(旧877条)という支配の構造が貫徹していた。つまり女・子どもは支配と保護の対象であった。親権者は、原則として、父であり(旧8771項)、父が知れないとき、死亡したとき、家を去ったとき、または、親権を行うことができないときのみ、例外的に、母が親権を行使することができた(旧8772項)」。

 こうした男尊女卑のカタマリの旧民法は、日本国憲法により、今の民主的な民法にチェンジした。

 なお、自民党改憲草案や安倍自公が、「家族」を強調していることと、旧民法は密接に関係している。

 前出の加賀山教授のHPによれば、「明治民法には、『家族』の定義があり、それが、『家』制度の根本思想に裏付けられていたために、現行法では、『家族』の定義も含めて、家族という用語自体が削除されたという事実は認識しておく必要があろう。つまり、日本の家族を知ろうとすれば、『家』制度が廃止されたたために『家族』の定義自体を欠くにいたった現行民法ではなく、『家族』の定義を有していた明治31年民法にさかのぼってその内容を知る必要があるのである」とある。

 安倍自公のいう「家族」は、旧民法の「家族」が念頭に置いている。

 押しつけ憲法を改憲して日本を取り戻す、などと安倍自公が盛んに郷愁する、敗戦前の憲法下の内実は、旧民法の世界である。(佐々木奎一)

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2016年11月13日

「侍」とは似ても似つかぬ野球日本代表


 日本の野球代表が侍ジャパンと称している。だが、メンバーのなかには、「侍」、つまり、「武士」ではない者もいる。
 ヒットを打つ気のないファウルを連発して四球狙い、という卑怯な手を使う、日本ハムの中島卓也(なかしまたくや)である。
 世界各国を相手に四球狙いのファウルをするというのは、日本人はそういう卑怯なことをするというのを世界にさらすに等しい。そして実際のところ、中島が故意のファウルを連発して、日ハムは優勝しているので、日本人はそういう卑怯なことをする、と海外の人々に思われるのは、残念だが、仕方がない。
 だが、侍の名を冠するのは、明確に、事実に反する。
 中島のように、「卑怯者」といわれ、世界中でもの笑いの種になるような真似をするのは、侍にとっては耐え難い屈辱であり、末代までの恥であると心底思う。だから、中島のように恥をさらすくらいなら、自ら死を選び切腹する。
 要するに、世界の人々が、侍とは、中島のような卑怯な真似をする、と誤解をしてしまうのは、日本を築き上げてきた先代の武士たちの名誉を傷つけることになる。
 だから、野球の日本代表は、侍ジャパンという名は撤回するか、あるいは侍の名にかけて中島のような卑怯な真似をする者は代表に選ばない、中島のような卑怯な真似は金輪際しない、このいずれかを選ぶべきだ。

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2016年11月09日

村上春樹の言葉と蔓延する歴史修正主義の暗流

 平成二十八年十一月四月付、のauのニュースサイト


   EZニュースフラッシュ増刊号の「朝刊ピックアップ」で記事 


 「村上春樹の言葉と蔓延する歴史修正主義の暗流」


 を企画、取材、執筆しました。




1029日付の朝日新聞朝刊に、「日テレが産経に抗議『恣意的な記事』 『南京事件』番組巡り」という記事がある。それによると、日本テレビのドキュメンタリー番組についての、産経新聞の検証記事が、事実と異なるとして、日本テレビが産経に対して文書で抗議したという。

 「番組は昨年10月に日本テレビ系で放送された『南京事件 兵士たちの遺言』。日本兵の日記や証言などをもとに、中国で捕虜や住民を殺害したとされる事件を検証する内容で、優れた放送作品などに贈られる昨年度のギャラクシー賞(優秀賞)を受賞した。

 この番組に対し、産経新聞は今年1016日付朝刊で「『虐殺』写真に裏付けなし」という見出しの記事を掲載。川岸に多くの人が倒れている写真の取り上げ方について、逃れようとする中国兵同士の撃ち合いや多くの溺死があったという記録に触れていないと批判した。捕虜の殺害についても『暴れ始めたためやむなく銃を用いた』とする大学教授の見方を紹介した。

 一方、日本テレビはホームページで『虐殺写真と断定して放送はしていない。産経新聞記者の『印象』から『虐殺写真』という言葉を独自に導き、大見出しに掲げた。いかにも放送全体に問題があるかのように書かれた記事は不適切と言わざるをえない』と指摘」したという。

 要するに、南京虐殺事件はなかったことにしたい、という、産経新聞のいつもの言い分を巡る話である。この産経新聞の思考は、そのまま安倍政権とその支持団体・日本会議にも当てはまる。

 一例をあげると、「新しい歴史教科書をつくる会」の創設者で同会元会長の藤岡信勝氏は、「南京大虐殺」について、「私たちの父や祖父達がこんなことを組織的にしていたとしたら、私達日本人は百年は立ち直れないでしょう。祖国愛や誇りを持つなどということもあり得ないことです」と訴え、南京大虐殺は「でっち上げ」であると述べている。その根拠の一つは、「虐殺者数がはっきりしない」、だからデタラメであり、「自虐史観」だというものだ。

 だが、99日付当コーナーで指摘したように、南京大虐殺当時、日本政府により発禁となった西洋メディアの日本語新聞の記事には、「非戦闘員の殺戮は広く行われていた。被害者は多く銃剣で刺され負傷者中には暴虐無残なものがあった。日本軍の掠奪は殆ど全市を侵すに及んだ」(ニューヨーク発行「アメラシイア」19382月号)、「南京占領の際、過去の日本軍には見られなかった掠奪、強姦、虐殺が大量的に行われたので、外人目撃者は非常に驚いて『南京攻略は日本戦史に輝かしい記録として残るよりも、その大量的虐殺の故にかえって、国民の面をふせる事件として記憶に残るであろう』との見解をもたらしている。一説には今回の戦争に大義名分がないから緊張味を欠くのだともいわれている」(シアトル発行「ニュース」1938112日号)などと報じられていた。(「太平洋戦争と新聞」(著:前坂俊之/講談社刊))

「私たちの父や祖父達がこんなことを組織的にしていたとしたら、私達日本人は百年は立ち直れない」と藤岡氏は言うが、我々人間というのは、ときに大虐殺などという、他の生物では考えられないようなオゾマシイことをしてしまうほど、“度し難い”生き物であるということを直視するところからはじめなければいけない。

 折しも、作家の村上春樹(67)は、1030日にデンマーク生まれの童話作家アンデルセンにちなむハンス・クリスチャン・アンデルセン文学賞の授賞式(アンデルセンの生誕地オーデンセで開催)に出席し、こう語った通りである。(以下、1031日付朝日新聞朝刊より)。

 「登壇した村上さんはアンデルセンの『影』という作品を引き合いに出し、『人間一人一人に影があるように、あらゆる社会や国家にも影がある。明るくまぶしい面があれば、それに釣り合う暗い側面があるのです』と英語でスピーチ。『私たちは時に、影の部分から目を背けようとします。あるいは無理やり排除してしまおうとします。でもどんなに高い壁をつくって外から来る人を締め出そうとしても、どんなに厳しく部外者を排除しようとしても、あるいはどれだけ歴史を都合のいいように書き直したとしても、結局は自分自身が傷つくことになる。自らの影、負の部分と共に生きていく道を、辛抱強く探っていかなければいけないのです』」

 (佐々木奎一)

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2016年11月06日

党員 二

48日付で、民進党の党員になろうとしたところ、結党から一か月経っても、一向に党員を募集していないことを、と記した。


http://ssk-journal.com/article/174815553.html


 その後、筆者は時折、募集しているか確かめていたのだが、実に半年以上も、民進党は党員募集を閉め切っていた。

 そして民進党代表選が終わって数週間後、にわかに、同党サイトで募集を始めていたので、応募してみた。

 すると、その日のうちに選挙区内の民進党候補の事務所から電話がきた。

 筆者の住む横浜の片隅の栄区は、行政区画上は横浜市に属するが、地政学上は、古来、鎌倉に位置する。栄区から鎌倉街道を進み、低い山を一つ越えると、鶴岡八幡宮の裏手に行き着く。つまり、鎌倉幕府の中枢を護る要衝の地だった。

 しかも、栄区というのは、三十年前までは、行政区画上も、れきとした鎌倉市だった。

 そういう場所である名残は、衆院選の区割りにも現れている。ここ神奈川4区の区割りは、鎌倉市、逗子市、三浦郡葉山町、そして横浜市栄区なのである。

 その神奈川4区の次期衆院選の民進党候補は、前鎌倉市議の早稲田夕季氏。早稲田氏は早稲田大出身。早稲田氏は、鎌倉市内の大船駅前で熱心に演説している。これは選挙のときだけ駅の改札前に出没する、軽薄な同選挙区の自民党衆院議員とは、質が違う。

 要するに民進党の党員に応募したところ、その早稲田夕季事務所から、電話がかかってきた。スタッフと型どおりのあいさつをしたあと、党員の手続きの話になるのかと思っていたが、なんでもそのスタッフが言うには、民進党の党員には来年五月にならなければ手続き上なれないのだそうで、それまでは準会員的な立場として、集会等にオブザーバーとして参加ができるという。

 正式な党員であれば、「民進党の運営や活動、政策づくりに参画する」ことができる(同党HP)。それに比べ、オブザーバー(議決権のない傍聴人)というのは、格段に権利がない。

 筆者は、外野で発言するだけではなく、色々と提言、建白していきたいと思っているので、オブサーバーというのが拍子抜けした。

 それと、自公議員たちが解散風を煽り、いつ選挙になってもおかしくないというのに、この期に及んで党員を閉め切っていることに、あきれてしまうのを通り越して感心してしまった。

 たとえば、共産党であれば、党員になりたい、と申し込めば、すぐさま自宅まで馳せ参じて、正式に党員の手続きを済ませることだろう。

 池田党に入りたい、という物好きはよもや世の中にはいないとは思うが、もし仮にいれば、信者たちが自宅に殺到して、池田教の信者にさせることを視野に、その場で入党の書類を書かせ、仕事は何か、とか、いろいろとぶしつけに個人情報を聞き出してくることだろう。

 民進党は、本来は、連合依存から脱却する意味で、どんどん組織につかない個人の党員を増やしていかなければならないはずなのに、いまだに党員を閉め切っているというのが、どこまでもゆるい政党である。

もちろん、体育会系のガチガチの感じより、そのゆるさの方が筆者には合うのだが、それにしてもゆる過ぎて多少驚いた。


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「原発ゼロ争点にすれば自公は負ける」小泉純一郎

 平成二十八年十月二十四月付、のauのニュースサイト


   EZニュースフラッシュ増刊号の「朝刊ピックアップ」で記事 


 「「原発ゼロ争点にすれば自公は負ける」小泉純一郎」


 を企画、取材、執筆しました。



23日投開票の衆院補選で、東京10区は自民公認、公明推薦の前職、若狭勝氏(59)、福岡6区は無所属新顔の鳩山二郎氏(37)がそれぞれ当選した。自民は鳩山氏を追加公認し、事実上2勝。野党は一本化したものの民進公認候補がともに敗れた(23日付朝日新聞電子版)

 しかも、「民進は社民などの推薦の申し出を断り、東京10区では野党4党の党首級がそろう合同演説会に候補者が来ないなど、終始、ちぐはぐな対応が目立った。野党3党推薦候補が勝利した16日の新潟県知事選の勢いを生かすこともできず、むしろ知事選で表面化した連合との亀裂が選挙戦に影を落とした」とある。

 この「亀裂」とは、新潟県知事選で、連合が原発推進の自公の推薦する候補を推した。それに対し、選挙終盤で民進党の蓮舫代表が、民進党以外の野党が推す脱原発を掲げる候補を応援したことで、連合と民進党執行部に亀裂が入ったことを指している。

 巷では、衆院選はいつあってもおかしくない、と盛んに自公議員が吹聴している。そうしたなか、野党第一党の民進党のこの動向は、野党支持者にとって、まことに心もとない。

 要するに、民進党はいま、支持母体である連合が、最大のネックとなっている。そのことに関し、示唆深い記事がある。それは、共同通信社が19日、小泉純一郎元首相に対し行った、退任後初めての単独インタビューである。

 同社の記事によると、インタビューの要旨は次の通りだったという。

 ――新潟、鹿児島両県知事選で、原発再稼働に慎重な候補が勝利した。

 小泉氏「目に見えない、うねりが出てきた。衆院選に影響がある。野党が候補を一本化し、原発ゼロを争点にしたら、自民党が勝つか分からない。野党が勝つのではないか。今までは争点隠しされた。これからは影響がある」「民進党は最大の争点が原発だと分かっていない。野党がだらしないから与党は楽だ。野党が原発ゼロを言い出したら、原発再稼働について、自民党から『実は反対』という議員が出て、ごたごたする。自民党は民意を無視している。民意を無視する政党が、政権を持続できるわけがない」

 ――今、現職なら原発ゼロを争点に信を問うか。

 「当たり前だ。野党は真っ青になる」

 ――即、原発ゼロか。

 「もちろん。原発推進論者の『安全、コストが安い、クリーン』とのスローガンは全部うそだ」

 ――首相在任中の原発政策を反省しているか。

 「当時、分かっていれば、とっくにゼロにしていた。論語の『過ちては改むるにはばかることなかれ』だ」

 ――高速増殖炉もんじゅの評価は。

 「(核燃料サイクル政策)全てが駄目だ。必要ない」

 ――使用済み燃料の再処理を認めた日米原子力協定のため原発政策をやめられないとの声もある。

 「米国は日本が方針を決めたら、いやと言えない。(2018年が期限の協定を)更新する必要はない」

 ――東日本大震災で救援活動をした元米兵の支援に取り組む理由は。

 「口だけの感謝では済まない。来年3月までに1億円を集め、見舞金として渡したい」

 このように原発政策について語ったという。また、安倍自公政権は、北方領土の2島返還をして支持率をアップさせた後に衆院選に臨み大勝して、憲法改正をするのではないか、と盛んにいわれているが、小泉氏は、こう語った。

 ――首相は憲法改正を実現できると思うか。

 「できない。基本は9条改正だが、国民に変える雰囲気がまだない。9条以外を変えるのは意味がない」

 ――北方領土問題は解決できると考えるか。

 「難しい。ロシアが北方四島の日本帰属を認め、2島を返還するならいいが、しないだろう」

 おそらく歴代の日本の首相のなかで最も選挙に強かったであろう、軍神(武運を守る神。いくさがみ。広辞苑)のような人物の言葉なだけに、真に迫るものがある。

 また、103日付の週刊アエラにも、小泉氏の単独インタビューが載っている。そこには、こういう下りがある。

 「原発ゼロを訴える原点については、こう語る。『私は首相だったとき、専門家の意見を信じていたけど、東日本大震災の後、自分で勉強し直した。113月以降、13年の9月まで、原発はたった2基しか動いていなかったし、それから去年の8月に川内原発が再稼働するまではまったくゼロですよ。この夏に伊方原発が動いたけれども、10月から川内原発は順次検査のために止まる。5年以上たっても、せいぜい23基しか動いていないけど、暑い夏も寒い冬も、電力不足を理由にした停電は全国で一度も起きていない。日本は原発ゼロでやっていけるんですよ』

 「原発ゼロの話になるとさらに力がこもり、弁は熱を帯びる。『まだ汚染水だってコントロールできていないし、除染にだって一体いくらかかるのかわからない。5年間、実質的に原発ゼロでできているのに、なおかつ再稼働させるのか。なぜこんなバカげたことをやるのか、不思議でしょうがないんだ。原発ゼロなんて、やるのは簡単ですよ。総理が決断するだけだ。経産省や推進論者はクルッと変わりますよ。日本が決めたら米国だって嫌と言いませんよ。責任もどこにあるのかあいまいで、政府? 規制委員会? 東電? よくそんなごまかしがきくな。不思議だね。いずれわかることだけど、原発ゼロのほうが成長できる。私はますます自信、確信を持っているんだよ。原発がなくなると働き口がなくなるという人がいるけど、雇用の場は、自然エネルギー、新しい産業で出てくるよ』」

 さらに、こう書いてある。

 「民進党は蓮舫氏が代表に選ばれ、執行部も一新した。民進党にアドバイスするとしたら、と聞くと、『ただちに原発ゼロを最大の焦点にしろ。それができない限り、民進党の支持は上がらないよ。2030年代にゼロにする? じゃあなぜ今ゼロにしないの?これもわからない。いずれ自民党がゼロを打ち出したら、もう野党はめちゃめちゃだよ』」

 このように、選挙の天才・小泉氏は言っている。だが、上述の通り、連合は、原発を再稼働したがっている。つまり、原発ゼロにするということは、民進党が、最大の支持母体・連合と決別することを意味する。これは民進党にとって、コペルニクス的転回である。

 なお、現状の民進党の内情を現わす、こんな記事がある。それは「民進『原発ゼロ』に波紋 工程表作成、党内に慎重論」(21日付朝日新聞朝刊)という記事。

 それによると、「蓮舫代表は20日、東日本大震災で事故を起こした東京電力福島第一原発を視察した。記者団に『原子力政策に関して複数の選挙で明確な結果が出ている。再稼働ありきでは絶対に国民の理解は得られないと確信している』と説明。30年代原発ゼロに向け、新エネルギーと雇用政策を含めた工程表を示すと明言した。

 民進は党の政策集で、30年代原発ゼロを『実現するために』、40年廃炉ルールを厳格に適用▼原子力規制委員会の安全確認を得たもののみ再稼働▼原発の新増設は行わない――の3点を『原則』」としている。

 要するに、原発再稼働を進めるということであり、自公政権と民進党は、軌を一にする。

 そのため、「脱原発を明確に訴える政党との調整がうまくいかず、参院選の野党共闘でも共通政策に『脱原発』の言葉は盛り込めなかった」

 「そんな中、今月16日の新潟県知事選で、東電柏崎刈羽原発の再稼働に慎重な無所属新顔の米山隆一氏が、再稼働を進める与党推薦候補を破った。米山氏は共産など3野党が足並みをそろえて推薦したが、民進は自主投票。原発再稼働推進の電力総連を抱える党内事情が影を落とした。(中略)こうした事情を背景に、安住淳代表代行が19日の記者会見で『他の野党とは(原発政策で)多少溝はあるが、許容範囲の中に収まらないと選挙で一緒にやるのは難しい』との認識を示し、工程表の作成を表明した」という。

 だが、工程表をつくっても、30年代まで原発を動かしていくことに変わりはない。30年代に原発をゼロにする具体的な計画をつくるといっているだけのことである。だが、そんな代物ですら、連合は目くじらを立てている。同記事にはこうある。

 「電力総連出身の小林正夫参院議員は20日、『これまでの3点の『原則』を踏襲するべきだ。工程表の話は承知していない』と朝日新聞の取材に答えた。電力総連を傘下に置く連合の神津里季生会長も20日の会見で『民進が政策をより強固なものにしていくことは普通のことだ』としつつ、雇用確保や安全面、地元同意などを踏まえ『再稼働できるものはすべきだ』と強調した」

 「工程表」一つでここまで反発するということは、連合にとって、「30年代原発ゼロ」とは、「永遠に原発を動かし続ける」という意味であることを如実に示している。

 このように、民進党は、最大の組織票である連合がネックになっている。連合が民意に反しているのは、新潟知事選で立証されている。民進党は、国民と共に進む、といっているのに、連合の言いなるのは、明らかにおかしい。

 蓮舫民進党は、民意と連合、つまり、国民各層の支持という個人票と、連合という確固たる組織票の、どちらの声に耳を傾けるかを迫られている。民進党にとって、「原発ゼロ」は、国民政党になれるかどうかの試金石である。(佐々木奎一)
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2016年11月04日

京都市“猫エサやり禁止条例”ができるまで  エサやり禁止プロジェクトチーム 五十

  次いで、こう述べた。
 「また『まちねこ活動支援事業』を提言し実施に至らしめるなど、積極的に動物愛護に関する取り組みを行っている議員と自負しております」

 そして、こう述べた。

 「ただ、いぬ・ねこ飼育に関する市民意識は様々であり、動物・ペットに対して皆同じ認識、理解をされていないのが現実であります。その現実の中で、理解を広げ、深めていくことが必要であり、そのためには、やはり進める段階があります。一挙には無理でも、一歩一歩進められれば必ず、いずれ『人と動物が共生できる豊かなよき社会』ができると考え、私なりに行政に提言、提案し、働きかけております。

 (続く)
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2016年11月03日

広島緒方監督「信念」の投手起用と武田勝頼・長篠の戦

 平成二十八年十月三十一月付、のauのニュースサイト


  EZニュースフラッシュ増刊号の「朝刊ピックアップ」で記事 


 「広島緒方監督「信念」の投手起用と長篠の戦」


 を企画、取材、執筆しました。



 日本ハムが王手をかけて迎えたプロ野球・日本シリーズの第6戦(1029日)は、7回が終わった時点で44だった。がしかし、8回表の日ハムの攻撃時、この回から、広島のジャクソンがマウンドに上がった。

 ジャクソンは、6試合連続登板でこれまで2試合で、日ハム打線につかまり、逆転負けを喫している。

 ジャクソンは、この回、危なげなく2アウトまでは取った。しかし、その後、ライト前ヒットを打たれた。一塁ランナーは、盛んに走る気配を見せた。ジャクソンは、ランナーを過剰に気にし始め、実に牽制球を5回も投げていた。こうしてバッターに集中でなくなり、センター前ヒットを打たれた。さらに、その直後にも、センター前ヒットを打たれ、一気に、満塁となった。

 迎えるバッターは4番中田翔。この試合で負ければ終わり、という、後がない状況で、これまで2回逆転されているトラウマによる極限のプレッシャーからか、ジャクソンの一球目は、ストライクゾーンから大きくそれるボール球となった。だが、ベンチは動かない。そして、ジャクソンは、2球、3球、4球と、立て続けに明らかなボール球を投じ、押し出しとなった。

 これで54と日ハムが逆転。そして、次のバッターは、日ハムのピッチャー。ピッチャーが相手なのだから、さすがに打ち取るだろうと思いきや、なんとセンター前ヒットを打たれた。これで64。ジャクソンは、満塁になった時点で、プレッシャーに押し潰され、押し出しになった時点で、緊張の糸がプッツリと切れてしまったようだった。

 迎えるバッターは、レアード。第4戦でジャクソンはレアードに決勝2ランを浴びていた。だが、ベンチは動かない。そして、ジャクソンは、レアードに満塁ホームランを打たれ、104という、広島にとって最悪のパターンとなった。この時点で、やっとベンチが動き、ジャクソンは交替となったが、この回で事実上、勝負は決まり、104のまま日ハムが優勝した。

 もともと広島は、シーズン中、7回を今村、8回をジャクソン、9回を中崎が投げて勝つ、というのが勝利の方程式だった。だが、日本シリーズでは、この3投手のうち、ジャクソン、中崎は打ち込まれた。これまでの勝ちパターンが、短期決戦の日本シリーズでは通用しなかった。それでも、広島の緒方孝市監督(47)は、この3投手で締める、という方程式を貫いた。そこには、シーズン中、この三人で戦い勝ってきたのだから、この三人を信じる、という、「強固な信念」があるように見受けられた。ここまで監督に信頼されれば、選手たちは意気に感じ、力を発揮することだろう。長期戦のシーズン中であれば…。

1030日付のヤフーニュースのライター、リサーチャー松谷創一郎氏の記事「勝負を分けた監督力の差──2016年日本シリーズを振り返る」には、こうある。

 「緒方監督は、頑なにシーズン中と同じ継投を繰り返した。結果、今村とジャクソンが6連投となった。これは1956年の西鉄ライオンズ・稲尾和久以来の記録だ。それくらい異例のことだ」

 いうまでもなく稲尾和久は、投げれば勝つから、連投した。2回逆転負けを喫しているジャクソンを、6試合全てに投げさせるのとは、意味合いが全く違う。つまり、長い日本シリーズのなかで、広島の投手起用は、前代未聞の異常事態で常軌を逸している。

 同記事には、こうある。「ジャクソンは、今年のカープの快進撃を支えた一人だ。ただ、シーズンでも好不調の波があるように、このシリーズでは明らかに不調だった。ジャクソンは、今シーズン67登板のうち12試合で点を取られている。だが、その12試合のうち9試合は連続しての失点だった。これは登板数の多い今村や中崎と比較しても、非常に顕著な特徴だ。悪いイメージを引きずるタイプなのかもしれないが、好不調の波の激しさがシーズン中にも少し出ていたのだ。

 問題は、そうしたジャクソンの出来ではない。不調のジャクソンを6試合も連続で使い続けたベンチワークにある。(中略)緒方監督の采配は意固地なくらいにワンパターンだった。全試合でベンチ入りした福井・九里・一岡の3投手は、結局一度も登板しないままだった。振り返れば、第2戦で4点リードの際にこの3人のひとりでも試していれば、もっと継投の幅が広がったと思える。それができなかったのは、シーズン中と同じ戦い方にこだわったからだ」

 こうしたデータからみても、緒方監督のジャクソン起用は、非合理性に満ち満ちている。それは、武田勝頼の「長篠の戦」を彷彿とさせる。

 長篠の戦とは、天正三年(一五七五)五月二十一日、織田信長・徳川家康連合軍が武田勝頼の軍を三河国設楽原(したらがはら)で破った合戦。

 通説では、この戦では、武田軍の騎馬戦法に対し、信長は馬を塞ぐ柵を構え、その後ろに鉄砲隊などを布陣させた。武田軍は次々と騎馬で攻めかかっていったが、柵の中から攻撃する鉄砲に悉く防がれ、大損害を受けた。信長は鉄砲隊を三段に重ねて、第一列の兵は射撃のあと後ろにさがり、第二列、第三列が撃つ間に弾を込めるというように、連続的に火縄銃を使用する戦法をあみだした。この戦法の大成功により、武田氏に代表される騎馬中心の戦法から鉄砲主体の戦法へと戦の主流が移った。「信長公記」によると武田軍の損害は雑兵をあわせて一万余。これほどではないにしても壊滅的打撃を蒙り、この合戦により、織田・徳川・武田三氏の勢力関係がまったく一変した。(「国史大辞典」(吉川弘文館刊)より)

 それにしても、なぜ、武田軍は、鉄砲で撃たれる中、ひたすら突撃を続けたのか。これでは玉砕に等しい。そのあまりの非合理性に、首をかしげる人は実に多い。

 だが、武田勝頼は、合理的に戦況を判断したのではなく、なんらかの「強固な信念」を持ち、ぶれずにその「信念を貫き通した」のではないか。

 緒方監督の采配は、長篠の戦を想起させる。(佐々木奎一)


 PS 一方の日ハムの栗山秀樹監督は、優勝はしたが、そこに至るまでには、中島卓也による膨大なヒットを打つ気のさらさらない、「四球狙いの故意のファウル」という、卑劣な手口の積み重ねがあった。日ハムはそうやって勝ってきた。栗山監督には、中島を重用するという、腹黒さがある。

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2016年11月02日

京都市“猫エサやり禁止条例”ができるまで  エサやり禁止プロジェクトチーム 四十九



 すると、すぐに中村三之助氏から、文面でこう回答があった。

 「お答えさせていただきます。

 まず、初めに申しあげておきたいことは、私は、約六年前にある動物愛護団体から、動物愛護に関する相談を受け、それ以来その方々との交流が有り、様々な動物愛護に関する話、また現行の行政の問題・課題を話し合い、その取り組みをして参りました」

 といい、こうつづっている。

 「『前京都家庭動物相談所』の問題を指摘し、『京都動物愛護センター 動物愛ランド京都』の建設に結び付きました」


 (続く)

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