2018年06月10日

ルポ猫を飼う いきさつ 十一

 それまで毎日必ず、カミさんか妹がふじちゃんにごはんをあげられていたにもかかわらずである。


「最後に見たのは金曜日」、カミさんもフジちゃんの消息は金曜日が最後…。


 「そんな…」


 しばらく絶句したカミさんは、涙ながらに言葉を絞り出す。


 「これから一緒に暮らすんです。今日、今日これから一緒に行くんです」


 そんなカミさんに、おばさんは不思議そうに「ボランティアか何かの方ですか」と聞く。


 カミさんは半ば取乱し気味にかぶりを振りながら「違います。一緒に暮らすんです」と答えた。


 涙が止まらなかったが、少し冷静さを取り戻したカミさんは、自分の連絡先を書いたメモをおばさんに渡した。


 「あの子と一緒に暮らします。もしあの子を見かけたら、こちらに連絡を下さい」と、お願いした。


 おばさんは、「わかりました。今度、たまを見かけたら、ここに必ず…」


 そう言い残し、おばさんは、かなたへ去っていった。

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2018年06月02日

ルポ猫を飼う いきさつ 十

 「死んだかもしれませんよ」


 その言葉を聞いた時、カミさんは、文字通り、こん棒で頭を思い切り殴られたような、衝撃をうけた。


 「猫は死ぬときに姿を隠すというし…」などと、おばさんは、続ける。


 「そんな……」


 カミさんの目から、涙がどっとあふれ、しばらく言葉がつげなかった。


 おばさんが、「あの猫はガリガリにやせて、(背中の毛をむしり過ぎて、)はげて…」云々と言っていた時は、カミさんは割と冷静に聞いていた。フジちゃんは、カミさんや妹たちがご飯をあげるようになってから、はげていたところに、うっすらと毛が生えはじめていて、一番ひどい時よりは、若干よくなっていた、おばさんは、そんなフジちゃんの変化を知らないのだ、と思っていた。


 しかし、そうは言っても、ひどく弱っていたことには間違いなかった。だから、「死んだかもしれませんよ」という言葉には、かなりインパクトがあったのだ。


 そして、カミさんには、気になっていることがあった。


 「猫は死ぬ時には、姿を隠す」、それは一般論としては知っている。気になるのは、「最後に見たのは金曜日」と、おばさんが言ったことだ。


 前日の土曜日の午前中、カミさんは、大家さんから、猫を飼う許可がおりた、ということは先に述べた。この連絡を受ける数時間前、ふじちゃんにご飯をあげに行ったのだが、この時、ふじちゃんに会えなかったのだ。それまでご飯をあげはじめてから、必ず、カミさんか妹がご飯をあげにいくと、すぐにフジちゃんが近づいてきてご飯をたべていた。それにもかかわらず、この日は午前中ずっと待っていても、ふじちゃんは現れなかった。

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2018年05月20日

ルポ猫を飼う いきさつ 九


 彼方から歩いてやってきたそのおばさんは、藤巻さんの家の前にさしかかると、にわかに、いつもふじちゃんのいる場所のほうを、しきりにながめ始めた。


 ふじちゃんのことを知っている人なんだろうな…


 とっさにそう感じたカミさんは、


 「いませんね」


 と聞いた。


 すると、そのおばさんは、ふじちゃんのことだとすぐにわかった様子で、にわかに、こう言った。


 「いませんよね。大抵、いるんですけど」


 そして、こう語りはじめた。


 「あの子は、『たま』というんですけど、元の飼い主さんの話によると、もう結構、年をとっているんですよ。

 元の飼い主さんは『こいつは若く見えるけど、結構年なんだ。14歳くらいだ』と話していたんですよ。それを聞いたのが2年以上前だっかしら…」

 おばさんの話を聞きながら、顔だちが若々しく、せいぜい45歳だと思っていたふじちゃんが、実は16歳を超えていたという事実に、カミさんは驚いた。


 さらに、おばさんは、こう語った。


 「飼い主が、あの子を庭に置いたままいなくなって、近所の親戚がご飯をあげに来るようになっていたんですよ。でも、外の暮らしが辛そうで、近所のほかの猫やカラスにいじめられたりして、ご飯もとられちゃって、だんだんやせていった。

 息子からは連れて来ちゃいなよ、と言われていたりしたけれど、一応、よその家の飼い猫だから、それはできないよわ、と話したりしたんだけれど…。

 最後に見たのは、金曜の夕方、ガリガリにやせて、毛がはげて…。いつもは、呼んだら側に来たのに、その時は来なかった…」


 そして、おばさんは、にわかに、こう言った。


 「死んだかもしれませんよ」

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